NEW!福岡市美術館の探索
■外壁タイルに秘められたこだわり
福岡随一の憩いのスポットと言っても過言ではない大濠公園。
水と緑、自然と人が調和した美しい空間です。
そしてここの敷地内にある福岡市美術館は、1979年のオープン以来、30年以上にわたって福岡市民に親しまれてきたアートの発信地です。
2年半の休館を経て2019年3月にリニューアルオープンしています。
福岡育ちの方であれば、一度は訪れたことがある福岡市美術館。
私が今働いている大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃貸オフィス)の近場ですし、なんなら高校も近くの大濠高校に通っていました。
湖の傍に佇み、品格が漂うレンガ調の外観が特徴です。
外壁は光沢感のある赤茶色の磁器質タイルとなっており、大禅ビルと同じでなんだか親しみを覚えますね。
さて、このタイルですが「打ち込みタイル」という特殊な工法が使われています。
私たちが普段イメージするタイルは、お風呂場で使うような薄いタイルだと思います。
コンクリートの壁が完成するとモルタルを塗り、そこにタイルを貼っていきます。
しかし福岡市美術館で使われているタイルは分厚く、目地部分まで一体となった複雑な形をしています。
立体的な存在感を放ち、レンガとレンガの間にはモルタル塗布層の白筋も見えません。
ただ、重たいタイルを垂直の外壁につけるわけですから、安全に保持できるかが大事です。
そこで採用したのが「打ち込みタイル工法」。
これはタイルをコンクリートと一緒に固めてしまう工法です。
① まずはコンクリートを流し込むための木製の型枠を組みます。
② 型枠の内側に桟木をつけます。
③ 桟木の上にタイルを乗せ、並べていきます。
④ タイルに空いている小さい穴(タイルの溝の部分)に釘を打ち、タイルを桟木と型枠に留めつけます。
⑤ タイルにあいている大きな穴(タイルの真ん中)と木の型枠を突っ張り棒(セパレーター)で貫通させます。
コンクリートを流し込んでも重さで型枠が膨らまないように固定するのが目的です。
⑥ 木の型枠の中にコンクリートを流し込みます。
⑦ コンクリートが固まったら木の型枠を外し、②で留めた釘を取り除きます。
⑧ 完成です!
外壁をよ~く見てください。穴がところどころのレンガに空いているはず。
ここに釘を打ち込んで木枠に固定していたんですね。
この「打ち込みタイル工法」は、タイルをコンクリートの壁に接着させるのではなく、最初からコンクリートと一緒に固めることでタイルが壁と一体化し、剥がれにくくなる点にメリットがあります。
安全性、耐久性、さらに美観を兼ね備えた工法と言えます。
■近代建築の巨匠・前川國男
この打ち込みタイル工法を開発したのは、日本におけるモダニズム建築の巨匠の一人に数えられる
「前川國男」
です。
福岡市美術館はじめ、東京都美術館や国立国会図書館、東京文化会館など名だたる建築の設計者でもあります。
「平凡な素材によって、非凡な結果を創出する」
「時間に耐える建築」
「建築は、その建つ場所に従え」
を標榜してきた前川氏の晩年の集大成とも言える作品がここ福岡市美術館なのです。
レンガ調のタイルには焼きむらがあって、床タイルもよく見れば一枚一枚表情が異なります。
茶色とひとくくりにはできない、豊かな色合いを含んでいます。
前川氏は大量生産のもと作られた均一的な仕上がりの素材を嫌い、微妙なムラの違いを求めていました。
皇居前の東京海上ビルのタイルの色は
「かちかち山のたぬきの火傷の色」
ある劇場の椅子の張り地の色は
「女の人が寒空に立っていたため唇が少し紫色になった時のようなワインカラー」
と指示した事もあったそうで、
ただ一つの色を、そこに至らしめる物語や情感をも含めて拾いあげていく鋭敏な感性は、さすが建築家と言いましょうか、もはやアーティストです。
普通の人が見える世界と、彼の目を通して見える世界とでは、見える色合いの数は全然違うんでしょうね。
天才から出されたこの色のリクエストに、さぞ担当者は固まったことでしょう。
福岡市美術館はリニューアルの際も、前川氏の理念を継承すべく、色んなタイルメーカーと掛け合ったものの、
異なる焼きムラのあるタイルを生産しているところはなく、最終的に瓦屋さんにオーダメイドで焼いてもらったという。
天井や柱のコンクリート壁もはつり加工によってザラザラとした凹凸が施されています。
まさに美術館自体が珠玉のアートそのものですね。
■ふらっと入れる日常の美術館
今回のリニューアルでもっとも大きな変化は公園に直結する入り口が新しくできたことです。
福岡市美術館の場合、園路から続くゆるやかで広い階段が「エスプラナード」と呼ばれる空間の入り口です。
上っていくと中庭を見下ろす1階の屋上に出て、2階エントランスから館内に入るようになっています。
ちなみに「エスプラナード」とは、自由に出入りできる開かれた中庭的な感じをもった空間です。広場でもあり、人が歩く遊歩道でもあります。
このエスプラナードにあった屋外展示の彫刻は配置換えしてスペースを空け、夏祭りといったイベントを開催できるようになりました。
人の集いをつくり出す場ができたんですね。
リニューアル前は2階がメインの入り口でしたが、階段を登らないとエントランスが見えず、
また日本庭園の植え込みなどがあったため、建物が隠れてしまってやや入りにくい印象があったそうです。
そこで大濠公園の歩道と直に接する美術館への道が館の西側に新設されるに至ったわけです。
広くゆったりと開けた道です。公園を散策しながら、気張らずふらっと入れるエントランス。
美術館と人との距離がぐっと近くなったように感じますね!
■新しい市美術館に行ってみませんか?
福岡市美術館は名スポットなだけあってアクセスは抜群。
福岡空港から地下鉄で約15分、博多駅から約10分です。大濠公園駅から徒歩10分ほどの場所です。
リニューアルした福岡市美術館は、1階;古美術・仏教美術コレクション、ミュージアムホール、2階;近現代コレクション、特別展示室、貸しギャラリーで構成されています。
福岡市美術館は近現代美術館としてスタートしましたが、
旧福岡藩主黒田家所蔵の古美術品などの寄贈が相次いだため、古美術にも注力することになった経緯があります。
それこそ時間幅で言うと紀元前5000年頃から現代まで、日本はじめ世界地域の絵画、彫刻、映像、陶磁器、屏風などを所蔵しており、コレクションの多彩さが特徴です。
現在、近現代美術作品約1万1000点、古美術作品約5000点を所蔵しているとのこと。
中にはサルバドール・ダリ、マルク・シャガール、レオナール・フジタ、草間彌生ら世界的な巨匠の作品から、
27歳で夭折した天才アーティスト、ジャン=ミッシェル・バスキアの絵もあり、いずれも現在購入すれば数億円は下らない名作ばかりです。
2階のロビーにある「美術情報コーナー」ではこうした所蔵品を検索できるパソコンが設置されています。それだけでなく、美術関連書籍など約1000冊が用意されており、閲覧自由です。
「芸術の秋」とは言いますが、芸術と出会うのに季節は関係ありません。
出会おうと思った時が芸術の季節です。
福岡市美術館に足を運んでみてはいかがでしょうか。