―郊外の不動産のリスクとは?―
■オリンピック景気?
大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃貸オフィス)でも、たまに東京出張に行くのですが、あちらこちらで進んでいるビル工事の光景が目に入ります。
中にはかなり大型なビルもあるようで、さてはオリンピック・パラリンピック前のバブルか?にも思えます。
メディアでは膨らむ競技場の建設費への批判とともに、「土建屋と政治家だけが儲かるオリンピック」など、槍玉にあげ気勢を上げる論調もちらほら。
ただ、実際のところオリンピックに直接関連する工事は競技場といった大型工事が数箇所あるだけで、そのほかは都心再開発の号令のもと、建設される大型のオフィスなんですね。
2016年から五輪開催年の2020年までに、都内で88棟、面積にして約473万平方メートルというオフィススペースが誕生するそうです。
年平均で約118万平方メートル、これは平成バブル初期の供給量にほぼ匹敵します。
ただ、平成バブルと違うのは、供給されるビルの規模が大規模化している点です。
つまり1棟あたりの床面積が広くなっています。
なぜこれほど大規模ビルの工事が建てられるようになったのか?
実は工事の約7割相当が、既存ビルの建て替えと言われています。
ですから、新しい土地に新しく建てるわけではなく、床面積が余るということがないので、市場は十分に新築オフィスの床面積を吸収できるだろうと言われています。
一方、工事の7割が建て替えによるものですから、テナントが立ち退きし、別の既存のオフィスビルの空室に入居したため空室率が改善されました。
空室率4%を切るという都内の不動産市場は大変な活況に湧いているようです。
しかし大型オフィスビルが完成した際は、テナントが戻ってくるのか疑問視する意見もあります。
そもそも新築のそれら大型オフィスビルは、設備・サービスも最先端なだけにアッパー層向けの高級物件に違いなく、高い家賃を支払える外資系企業などを除いて、多くはおりません。
そこで賃料のディスカウントや、フリーレント設定でテナント誘致に走ると思われますが、既存の大型オフィスビルとの間に誘致合戦が繰り広げられる可能性がありません。
更に、仮に既存の大型オフィスのテナントが引っこ抜かれたとして、彼らも更に中小のオフィスのテナントに営業攻勢をかける動きに出るかもしれません。
比較的新しく、設備の整った大型オフィスならば、引っ越すテナントも出てくるのかもしれません。
というのも、中小のオフィスの多くは平成バブル期に多く建てられ、築年数が30年、40年に達しようとしている、いわゆる築古です。
中には修繕維持にあまり力を入れていない物件もあるでしょう。
そして、オーナーの高齢化、後継者問題も中小オフィスビルのオーナーたちが頭を悩ませる問題に違いありません。
子どもたちは後を継がず、老朽化したビルの修繕費用を拠出できるオーナーも少ない。
ビルの建て替えにしたって解体費・建設費もかかります。
結果、多くの中小ビルが手放され市場に出回るかもしれません。
最も弱小な中小オフィスビルにしわ寄せが来る形です。
大型オフィスが一気に供給され始める2020年前後、東京の不動産市場にとっては大きな転機を迎えると言えそうです。
■郊外ニュータウンの相続問題
首都圏郊外のニュータウンで大量の空き家が今後発生すると言われています。
戦後の高度成長期の日本では、地方から労働力が大挙して都会に流れ込みました。
懐に余裕が出てきた彼らは真っ先に求めたのが「マイホーム」でした。
一生懸命働いて、マイホームを持つ。
当時の日本人全員の夢だったと言っても過言ではありませんでした。
彼らは都会と地方を繋ぐ鉄道沿線にマイホームを求め、全国各地でニュータウンがどんどん造成され始めました。
1970年代のことです。日本人のマイホーム神話もこの時に形成されたのでしょう。
さて、現在首都圏に暮らす団塊世代はおよそ200万人、彼らが後期高齢者、つまり75歳に達するのが2024年です。
その時期になると相続も発生してくるでしょう。
彼らの相続人となる30代交換~40代前半の団塊ジュニアと呼ばれる世代は、親たちと異なり、殆どが共働き世帯。
通勤に時間と労力がかかる郊外に住むという選択肢はなかなかとりづらいと思えます。
子育て世帯ならなおさら都心から近いほうに住みたがります。
このようなライフスタイルが変化していく中で相続が発生した場合、団塊ジュニアたちはなお親たちの家に住まないとなると、どうなるのでしょうか?
「放置」か「賃貸」です。
相続はしたものの、帰って住まないのでそのまま放置です。
本来ならば家財道具は全て片付ける、部屋を綺麗に空けておくところですが、何せ親たちが何十年も暮らした一軒家ですから、山ほどの家財道具があって片付けるのも億劫になります。
ですからたまに家に帰って軽く掃除をし、仏壇に線香をあげることぐらいしかしません。
しかし、建物は例え誰も住まなくても維持費がかかるもの。
一軒家の場合庭がありますので、雑草も生えます。
夏頃になるとぼうぼうの伸び放題となり、近所からはクレームの嵐です。
動物や虫が住み着くとさらに厄介でしょう。
草木も剪定しなければ、あっという間に不気味な廃屋となってしまいます。
マンションならば修繕維持費、管理費、更には固定資産税、都市計画税がかかります。
持っているだけでも永遠にお金がかかってしまう。遺産を相続したからって、喜んでばかりはいられませんね。
では貸し出そう!と考えますが、よほど建物の状態がよく、優良立地でなければ難しいでしょう。
自分たちと同様、郊外のニュータウンを選ぶような子育て中の若い世帯は、少なくなってきています。
ニュータウンも、同時期に入居しているので、高齢化するタイミングも同じ、しかし新しい世帯の流入は減っているため、空き家がどんどん増えていると聞きます。
人口が少なくなったエリアは、買い物、学校、病院、レストランなど、生活にかかるインフラも撤退や統合によって利用しづらくなっていきます。
結局、親たちの家は二束三文で売却されます。
売却できるならよいですが、そもそも買い手がつかないなんて悲しい状況にもなりかねません。
団塊ジュニアたちが持ち余した郊外の家はこれから市場に出てくるでしょう。
逆に、地価が下落した郊外の土地をリーズナブルな価格で購入し、週末などに憧れた田園ライフを送れるチャンスがやってくると言うことでもあります。
価格が下がれば、そうした潜在ニーズを刺激する呼び水になるかもしれません。
■ニュータウンが「ゴーストタウン」に?
以前知り合いの社長様ご実家にお邪魔させて頂いたことがあります。
筑後方面に家があるのですが、ご両親ともに数年前に他界。
家はご両親が住まれたいた時とは変わらず、家財道具が雑然とそのまま置かれています。
社長様のお住まいは福岡市内ですが、数ヶ月に一度帰宅し、空気の入れ替えをしたり、掃除したりしています。
それでも庭までは手が回らず、草むらになっており、雑草の丈が壁を超えてお隣まで被さっている状況でした。
既に福岡市内で家を買っている社長様は、実家に戻って来られるつもりはなく、可能ならば売り払いたいとは思っていても、多忙な仕事の中から時間をひねり出すのは容易ではありません。
家の中はまだそこそこ綺麗に保たれてはいるものの、外観はお世辞にも綺麗とは言えず、日本家屋の立派な昔の面影はなく、棄てられて廃屋そのものでした。
これでは売ろうとしても、売れるのだろうか。まともにメンテナンスもしてないだろうから老朽化も進んでいるし・・・
と、他人ながら余計な気を回してしまったのを覚えています。
そうした財産とはならない「負動産」が、一軒だけならいいですが、その周辺も相次いで相続が発生すると、人っ気のない「ゴーストタウン」が現れそうです。
高齢化と人口減少を迎える地方が今後、対峙すべき大きな課題と言えるでしょう。