―相続と投資のあれこれ―
■相続税対策の考え方
現在、一部都市で興っている不動産市場の空前の活況について、もう少し深掘りしていければと思います。
今回のテーマは、「相続」。
今日の不動産市場の動きを観る上で重要な視点の一つです。
マイナス金利のプレッシャーを日銀からかけられている民間銀行は、預金の運用先ならぬ逃し先の一つに「不動産投資向けローン」に目をつけました。
現在日本の個人金融資産はおよそ1,800兆円にも達しており、その約半分は60歳以上の高齢者が所有しています。
そして高齢者にとって大きな関心事が「相続」です。
例えば預金が2,000万円あれば、そのまま全額が相続税の課税対象となってしまうところ、不動産で相続した場合だと、土地は路線価評価額、建物は固定資産税評価額で評価されます。
一般的にはこれらの評価額は時価よりも低いため、2,000万円のうち課税対象となるのは約59%の1,180万円となります。
ちなみにタワーマンションの上層であればあるほど、時価と評価額のギャップが大きくなり、より大きい節税効果が見込めます。
更に投資用不動産の場合、課税対象額は更に34%軽減されますので、トータルで課税対象額が約7割軽くなるという計算です。
加えて、土地を遊ばせてしまうと、更地の評価は高くなります。
土地上に投資用アパートやマンションを建てるのは相続評価額を圧縮する最上の方法と言えます。
この相続税対策のニーズを捉えた銀行は、不動産投資向けローンの融資条件を緩和し、個人資産家へ営業攻勢をかけている最中でしょう。
銀行サイドから見ても、不動産投資向けローンは住宅ローンよりも金利が高く、不良債権リスクの低い優良商品です。
加えて、顧客に紹介した不動産会社や工務店から貰えるキックバック手数料も低金利下での重要な収入源でした。
■実需に反するリスク
しかし、こうした節税目的の不動産建設は、往々にして実需に反し、当初の目的である節税が果たせないばかりか、負債となったオーナーにのしかかってきています。
2010年以降日本の人口が頭打ちとなっているにも関わらず、その後も貸家の着工戸数は増え、2016年には前年比で11%超となっています。
これは新規住宅施工の4割を占めています。
住宅ローンの新規融資額も2016年の4~6月期は26.1%もの伸びを記録しました。
人口の減少状況から考えて、これほどの貸家着工需要を支える実需は見当たりませんので、節税目的の不動産投資が大きく影響しているのは明らかです。
特に地方でのこうした賃貸住宅の着工増は顕著となっています。
さて、不動産を拵えてしまえば確かに節税効果は期待できますが、不動産を建てるのも、また維持するのもただではありません。
建設資金にはまとまったお金が必要ですので、自己資金プラス借入金でまかない、また建設後に運営管理費、修繕積立費などもかかります。
いくら節税でも、建物自体が赤字に落ちれば本末転倒です。
実際、節税目的の賃貸アパート・マンション市場ではこうした問題が噴出しています。
賃貸需要がそもそも薄いエリアに同じような賃貸ビルが建ち、テナントの奪い合いが発生します。
需要がないため空き物件が増え、賃料が低下し、建設の借入金の返済どころか、管理費や修繕積立費さえろくに払えないオーナーも出来てきています。
手入れされないまま老朽化し、治安も悪くなり、価値が大いに毀損された建物は、ますます借り手がつかず、売るにも二束三文しかなりません。
建物の価値は、建物自体の状態はもちろん、テナントが入ってこその価値だからです。
■金融庁と日銀の対策
相続税対策のために建てられた建物の全てが、こうした悪循環に陥っているというわけではありません。
しかし、空室発生・賃料低下のリスクを資金の借り手が十分に理解しないまま、物件の収益性を度外視した融資が行われているのは確かです。
ついに金融庁と日銀は2016年にアパートローンの実態把握と監視強化を開始します。
融資の審査、実行後の管理などをチェック項目とし、金融機関の適切なリスク管理を促します。
というのも、単に金融機関と建物オーナー間のトラブルにとどまらず、ローンが不良債権化する危険性を孕むからです。金融機関は適切なシビアさをもって融資判断を行うとともに、投資側も冷静な目利きが求められます。
現状は政府・日銀の対処と、相続税対策としての需要が一巡したことも影響し、住宅ローンの新規融資が減少しています。
■サブリースのリスク
賃貸用不動産の投資において、トラブルになりやすいのが「サブリース」です。
これは不動産会社が一定期間物件を一括借り上げて、賃料を保証してくれる仕組みです。
例えば物件に入居者が集まらない、あるいは建てたばかりのマンションなどの場合、入居者を確保できないと「逆ザヤ」、
つまり「物件が存続すること自体損失を生む」状態になります。
そのような物件の一戸あたりの家賃を例えば「5万円」としましょう。
そこで不動産さん会社が一戸「4万円」で一括して借り上げます。
全戸分の家賃をオーナーに支払い(家賃保証サービス)、加えて設備を充実させたり改修したりして物件の付加価値をあげ、さらに「5万円」で貸し出す「さや取り」のビジネスモデルがサブリースです。
オーナーが得られる家賃は当初よりも低いものの、空室を出さず全戸を貸し出せて、安定した家賃収入の確保が可能です。
一方借主は設備や内装が充実した物件に入居できます。
不動産会社は自社で土地購入や物件を開発することなく、他人の資産を活用することで収入を得ることができる。
物件の所有権はオーナーに帰しますが、重要なのは誰が物件を所有するのではなく、集客を行い安定したキャッシュインの創造ですね。
正しく運用すればまさに三方良しの仕組みです。
しかし不動産会社とて商売、サブリース契約に色々条件を付して自社のリスクをできる限り回避しようとします。
賃貸期間が30年でも、サブリースによる保証期間は10年だったり、賃料は5年経てば変更できたりといった条項を設けています。
条項自体は法律に沿ったものでも、ずっと一定の賃料を保証するかのように不動産会社はセールストークを行い、オーナーもオーナーで契約内容をよく理解もせずに契約。
後年、オーナーが賃料の減額に応じない、あるいは指定された工事業者にリニューアル工事を発注しない場合、サブリース会社より契約解除を迫られ、、、
まとまった家賃収入を一気に失うことができないため泣く泣く減額要求に応じるといった種々のトラブルが発生しています。
■投機資金引揚げによる価値下落のリスク
実需に合わない過剰供給によって物件がだぶつき、不動産の価値は下落します。
その下落に拍車をかけるのが投機資金の存在です。
不動産価格が頭打ちになり、バブル崩壊に見舞われれば、投機資金は素早く「売り逃げ」を図り、そのため不動産価格は下落に向かいます。
彼らは相続税対策ではなく、利ざやを稼ぐために投資しているだけに過ぎません。
有利と見れば買い、不利と見れば売る、シンプルなビジネスロジックです。
しかし、節税目的のオーナーたちはそうもいきません。
節税効果は相続時に初めて享受できるので、「売るに売れない」という生殺し状態、その間も不動産価格の下落は続きます。
問題なのは、節税効果を高めるために不動産購入の資金の殆どを借入金で購っている場合です。
価格が元本以下に下落すると、借入金を返済できなくなるリスクが顕在化してしまうのです。
相続後も売れず、貸出しても賃料が低く、思ったほど借り手もつかない。
親心で不動産を買ったつもりが、とんでもない負の遺産となる恐れもあるのです。
節税効果を求めるにしても、投資というならばやはり本筋である「利益性」の評価を正しく行いたいものですね。
大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃貸オフィス)が新しくビルの投資を行う予定は現在のところありませんが、
お客様のニーズに真摯に向き合い、事業を通じて利益創出を目指す企業として当たり前のスタンスを今後も続けていきたく存じます。