「新しさ」だけではない!不動産価値の捉え方の変化
日本人の新築重視
ビルの価値は不動産の新しさに比例するのが日本では一般的です。
省エネ・省スペースといった建物の効率性への重視や、地震などの災害の多さが理由ですが、根底にはそもそも
「建物はやっぱり新築がいい!」
という「新築信仰」の価値観が流れているからだと思います。
だから日本ではスクラップ・アンド・ビルドが未だ多く、新築されてから取り壊されるまでの年数は比較的に短いと言えます。
一方、欧米では建物を継続的に維持・修繕し、長期使用する傾向にあります。
「ファシリティ・マネジメント」
という考え方で、その根底には「使えるものは、長く大切に使い続ける」という発想があります。
建物のメンテナンスに気を遣い、使用感を維持しながら沢山の方に長く、丁寧に使って貰い、人の記憶と共に地域の中で建物年齢を重ねていく。
それが結果的に建物の資産価値の保全・向上に繋がると考えています。
そしてもう一つは環境への配慮。
この商品はどのくらい長く使えるのか?
リサイクルできるのか?
――環境とサステナビリティへの概念が特に浸透している欧州では、この2つの条件を満たせたい物ならば、例え新品でもそれは「ゴミ」に見える方もいるそうです。
建物も然り、取り壊しが減れば瓦礫も出さなくて済みます。
長く使われる建物は、「エコ」という価値も認められるのです。
もちろん新しい物件も建てられるのですが、例えば築100 年くらいの建物でも、オーナー がきれいに改装して住んだり、貸し出したりします。
しかもそうした物件のほうが、銀行融資されやすいと言います。
新築マンションよりも、古い家を買ったほうが後々価値アップが見込まれるという考えもあるほどです。
アメリカなどに比べても中古住宅流通が日本は少なく、10分の1程度と言われています。
既存住宅流通に占める中古住宅のシェアは、フランスでは6割、アメリカでは7割、イギリスでは8割に上ります。
古さ、由緒、歴史、社会・地域との関わり、環境。
欧米追従というわけではありませんが、欧米の建物への付加価値の判断基準はもっと多面的で、人間的です。
新築信仰は歴史と文化にも原因?
日本と欧米の不動産への捉え方の違いは、歴史と風土によって培われた意識の違いも影響しているでしょう。
欧米は「石造文化」に対し、日本は「木造文化」の伝統です。
古いもの、歴史と伝統を尊ぶ文化はもちろん日本にはあるものの、建物に関しては、地震、火事、湿気、台風の多い日本では
「いつか朽ち果てるものだから、適宜立て直すもの」
という意識が時代を通じて育っていったのかもしれません。
一方欧米は「建物は永続的に残るから、使い続けて改良していくもの」と考える人が多いようです。
そして、戦後日本の「特殊事情」も大きな要因と言われています。
空襲で焼け野原になった戦後の日本は、空襲による建物の焼失、そして500万人に上る引揚者の大量帰国のため、極度な住宅不足から出発しました。
終戦後の混乱期を抜けた後も、人口急増と経済成長によって、特に住宅を中心とする慢性的な建物不足が続き、「質より量」が求められ、良質とは言いがたい建物が多く存在していました。
そして高度成長期において建物の建て替えが進み、日本人のライフスタイルも急速に欧米化していきます。
間取りは和室から洋室へ、畳からベッドへ、土間からキッチンへ。
一生懸命お金を稼いで手に入れた新しい家、新しい暮らし。
当時の日本人にとっては「新しさ」というのが悲願だったのでしょう。
「古い建物は質が悪い」「古い建物はライフスタイルに合わない」
というイメージがその時についたのかもしれません。
技術の進歩による後押し
耐震性や耐久性が脆弱だった昔の日本家屋ですが、今では鉄筋コンクリートなど、建材や工法の進化によって課題はクリアされつつあります。
耐震性については、建築基準法改正や耐震リフォーム工事の普及により大きく向上しています。
今では100年に近い寿命を保ちながらも、需要に応じて仕切りや床の解体・移設がしやすいビルも建てられるようになっています。
とは言え、何百年も建て続けている日本の神社仏閣を目にすると、建物というのは我々が思っている以上に奥深い世界だと感じます。
法隆寺なんて1400年以上。建物を長持ちさせるのは、単に技術だけでなく、残していきたいという意志、心も大事なのではないかと思いますね。
それから「長期優良住宅」というコンセプトも日本で注目され始めています。
「200年住宅」とも言われ、「省エネルギー性」「維持管理・更新のしやすさ」「劣化対策」、さらに
建築時から将来のメンテナンス、改修を見据えた「維持保全管理の計画」「可変性」など条件が満たれた住宅を指します。
2009年には長期優良住宅の普及を目指した「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が施行されました。
床面積など一定の条件はありますが、住宅ローン控除、不動産取得税の減額、登録免許税と固定資産税の軽減といった優遇措置が受けられるようになりました。
また、既存の住宅を長期優良住宅に改修することで受けられる補助金制度もあります。
日本の業界の変化
日本の不動産業界でも変化が見られるようになっています。
経済停滞や人口減少により、老朽建物の取り壊しや新築にかかる費用負担が企業や家庭の出費に重くのしかかるようになります。
保有する不動産を長生きさせ、コストを抑えようという発想が出てきています。
近年住宅産業で最も成長したリフォーム産業もその流れの現れでしょう。
過去に自社で建てた物件を買い取り、その建物をメンテナンスとリフォームを施して、再販する事業に取り組んでいるハウスメーカーもあります。
そして最近よく耳にする「リノベーション」という領域もあります。
「リフォーム」と「リノベーション」の定義の違いは、前者は「原状回復のための修繕・営繕、不具合箇所への部分的な対処」に対し、後者は「機能、価値の再生のための改修、その家での暮らし全体に対処した包括的な改修」を指します。
つまりリノベーションは、建物の機能も含めたコンセプトそのものを一から刷新し、ライフスタイルの変革や地域コミュニティづくりなど、新しい価値の創出を目指した取り組みと言えます。
リノベーションの動きは北九州市が全国に先駆けて盛んです。
官民連携のもと、商店街エリアから小規模な複合施設、コワーキングオフィス、スタートアップ基地が次々と誕生しています。
これらから言えるのは、不動産を取り巻くマーケットからのニーズが多様化している点です。
単なる「経済性」「効率性」のみならず、環境や社会への配慮も併せもつ不動産への評価が高まりつつある点です。
事実、環境・社会へ配慮した取り組みが賃料形成、投資判断の側面から不動産の価値向上に寄与することを示す調査もあり、投資市場における環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した「ESG投資」
への関心が日本でも高まっています。
当社大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃貸オフィス)は1973年建築以来、丁寧に手入れし、約45年経った今でも多くのテナント様にお使い頂いております。
また、建物自体も舞鶴エリアの中では既にアンティーク、世代に亘り地域の風景の一部となって人々の記憶に溶け込んでいます。
先々代から受け継いだレトロオフィスビルの魅力をより一層発信できる時代になったと、わくわくしている今日この頃です。