建築史シリーズ 鉄筋コンクリートとデ・ステイル
弊社、大禅ビルが行っております貸しビル業は、本質的には空間に付加価値をつけていくプロデュース業だと考えています。
そのような仕事をさせて頂いている身ですから、建築やインテリア、ファッションといったデザイン全般にアンテナを張っており、
そこで得たヒントやインスピレーションを大禅ビルの空間づくりに活かすこともあります。
とは言え、私は専門的にデザイナーとしての教育を受けたことはありませんから、本職の方々と到底比べられません。
本物のデザイナーというのは、既存の概念を超越するような美を生み出すアーティストに近い存在と言ってよく、その足跡の後には全く新しい地平が拓けていくものだと思っています。
このシリーズではそうしたデザイナーたちが紡ぎ上げてきた建築の歴史を中心にご紹介していきます。
◯鉄筋コンクリートの打放しはここから生まれた
1824年、古代ローマで用いられていた天然セメント(ローマンコンクリート)の使用から1800年もの時が経ち、ようやく石灰岩と粘土を焼いて粉砕したポルトランドセメントが発明されました。
セメントを原料としてつくられるコンクリートは、やがてはるかに強度の高い鉄筋コンクリートの発明へとつながっていきます。
そのきっかけとなったのは、割れない植木鉢を求めて試行錯誤していたフランスの造園家ジョセフ・モニエです。
モニエは鉄鋼を芯にした植木鉢を考案、特許を取得します。
その後、フランソワ・コワニエが鉄網コンクリートを用いた住宅をパリに建て、さらにアメリカの建設業者ウィリアム・ウオードが鉄筋を配置する方法を考案。
そしてフランソワ・アンネビックが鉄筋コンクリート工法のシステムを発表し、以降鉄筋コンクリートが普及していくのでした。
フランスで活躍した建築家、オーギュスト・ペレは、当時まで新しい素材だった鉄筋コンクリートに「近代建築ならでは」の表現を探求しました。
そして2つのことを提案します。
一つは壁構造ではなく、軸組構造(柱と梁による架構)にすること。
そしてもう一つはコンクリートの地肌を見せることでした。
その結果生まれたのが、世界初の鉄筋コンクリート打放し建築、ルランシーのノートル・ダム聖堂です。
ステンドグラスはゴシック教会へのオマージュのように、多彩な光が堂内を満たしています。
戦後だったこともあり、極度のローコストで建設されたために細く薄い断面の鉄筋コンクリート造となっています。
ゴシックの教会では柱(ピア)はそのまま垂直にリブ・ヴォールトに上っていき、頂点の一点に集まりますが、ノートル・ダム大聖堂ではヴォールト天井で止まっています。
柱をよく見ると凹凸しており、古典主義オーダーの柱溝を意識していることがわかります。
現在は世界遺産になっているこの建築ですが、完成した当時は残念ながら不評でした。
なぜなら、当時の時代の先端はデ・ステイル、ピューリスム、表現主義にあり、鉄筋コンクリートの打放し表現とは無縁だったのです。
そうした中、アントニン・レーモンドは例外的に耳を傾け、自邸にこの仕上げを採用。
ルランシーのノートル・ダム聖堂からわずか1年後、日本ではじめてのコンクリート打放し建築が登場します。
その後、日本の打放しコンクリートの歴史はレーモンド-前川國男-丹下健三と繋がり、やがて安藤忠雄が登場することになります。
実は鉄筋コンクリート造が誕生した当時、工場や倉庫、あるいは下級住宅などを安価に建てるために採用されることの方が多かったのですが、今や大規模建築には当たり前のように用いられ、デザインの評価も高い。
時の流れによって、ふさわしい建築は変化し続けるということでしょう。
◯デ・ステイルの登場
デ・ステイルは、第一次世界大戦の混乱の中、抽象芸術家や西洋美術界の活性化、さらには建築やバウハウスへの影響など、国境や美術の分野を越えた、芸術界全般に大きな貢献をした芸術運動です。
テオ・ファン・ドゥールスブルフとピエト・モンドリアンに率いられた画家、彫刻家、建築家が参加し、機関紙『デ・ステイル』のもと、芸術と生活の融合を唱え、絵画から建築に至る生活環境のデザイン化をめざしました。
基本理念は、モンドリアンが提唱した新造形主義(ネオ・ブラステイシズム)で三原色(赤·青·黄)、無鮮色に水平、垂直線という限られた要素で全体を構成する表現を追究しました。
この特性をもつデザインは、レッドアンドブルーチェアにおいてはじめて実現されました。
デ・ステイルにおける代表的な作品はヘリット・リートフェルトのシュレーダー邸です。
白や黒、グレーの面材と赤・青・黄の鮮やかな部材からなる面と線(水平、垂直)によって構成されたこの前衛住宅は建築界に衝撃を与えました。
モノトーンで塗り分けられた壁と三原色に塗られた鉄骨部材による特徴的な外観、2階のリビングダイニングの角には柱を立てず設けたコーナーウィンドウ。
窓を開けると柱など邪魔するものが何もなく景色を存分に室内に取り入れられる設計になっています。
生活の中心となる2階は、昼間は可動問仕切りをすべて開放することで部屋の端まで視線の通るワンルームとなり、さらに浴室部分の間仕切りを収納することで回遊性が生まれます。
一方、夜になると、可動問仕切りを引き出すことにより、3つの個室とLDKに分割され、個々のプライバシーが見事に確保されるのです。
自由自在に空間を組み替えられる点は、日本家屋の襖と通ずるものがありますね。
ダイナミックで機能的なこのしくみは、まさにデステイルの理念そのものといえるでしょう。
この「面と線による幾何学的美学」こそ、パウハウスやピューリスム、ユニバーサルスペースに至るまでの現代建築を引っ張る原理となっていったのです。
以上、大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃貸オフィス)からでした。