―貸しビル業と待機児童問題―
ビジネスの本質は問題解決を通じた社会貢献にあります。
今回は時代の社会問題に対して、貸しビル側からの取り組みについて考えてみたいと思います。
―■待機児童問題―
今年に三菱地所が、丸の内エリアのテナント企業や就業者をターゲットとした保育所付サテライトオフィス「コトフィス~こどもとはたらくオフィス~ 新国際ビル」を開業しました。
「子どもを預ける施設が欲しい」というテナント企業からの要望を受けて設営されたファミリーフレンドリーなオフィスです。
テナント企業の従業員は子連れで通勤し、施設内で子どもを預けて出社する、あるいは施設内で自分のPCを持ち込んで働くことができるそうです。
テナント企業からのこうしたニーズを貸しビル側が受け止めた背景には近年とみに社会問題化し解決が待たれる「待機児童問題」があります。
そもそも待機児童問題とは何でしょうか?
待機児童とは、保育所への申請がなされ、入所条件が満たされているにも関わらず、入所できない状態にある児童のことです。
待機児童問題の議論の呼び水ともなった
「保育園落ちた日本死ね」
と題された匿名ブログが世間を賑わせてから2年経ったとは言え、問題自体の完全解決がまだ見られないために実感を伴う記憶とともに思い起こされるところでしょう。
厚生労働省の統計によれば、平成29年10月時点の待機児童数は55,433人、前年同期に比べて7,695人の増加だそうです。
待機児童数は特に都市部に集中し、福岡県は1,000人超、比べて東京都は約8倍もの数となっています。
これにいわゆる「隠れ待機児童」(希望した認可保育所に入れていないにも関わらず、親の育児休暇延長や求職活動中止等の理由により行政で待機児童としてカウントされていない児童)もさらに数が膨らむと思われます。
子どもを保育園に入れるために保護者が行う活動は「保活」と呼ばれています。
子育て中の友人の話を聞くとそれはもう死に物狂いの一言だそうです。
ありとあらゆる手段とルートを駆使し情報をかき集め、申請書の書き方から、いつどこでどの保育所に提出するかのテクニックに至るまで、、、
さながら受験生か企業のマーケティング部門のようでした。
―■待機児童問題の原因―
待機児童問題が大きくなった原因はいくつか挙げられます。
① 女性の社会進出
男女観念の保守色の強い日本において「男は仕事、女は家庭」という夫婦あり方が伝統として長らく定着してきました。
しかし、長引く不況や男女機会平等の政策などにより共働きを選択する世帯の増加を促しました。
厚生労働省のデータによれば平成 28 年の女性の労働力人口は 2,883 万人と前年に比べ 41 万人増加し、労働力人口総数に占める女性の割合は 43.4%と、働いている人の実に4割を女性が占めているという結果です。
正直イメージしていたのよりもずいぶんと多い印象ですね。
もちろんこの変化は大変喜ばしいことに違いありません。
一方、共働き世帯の増加は、保育所に対する需要の強さに繋がっていきます。
② 待機児童の都市部への集中
地方と比較して仕事環境が整備されている都市部に人口が集中しています。
保育所という子育てインフラの整備が進められているものの、増え続ける待機児童に完全にキャッチアップできているとは言えません。
都市部ではより待機児童問題が顕在化しやすいでしょう。
③ 保育士不足
保育所で働く保育士の数が不足しています。
厚生労働省の「保育士確保プラン」によれば平成29年度末の時点で6.9万人不足しているとのことです。
理由は仕事環境の過酷さと、それと釣り合わない給料です。
朝から晩まで働き詰めなのはざらにあり、更に子どもたちの行事に合わせて工作物の製作など準備もやらなくてはいけません。
サービス残業、持ち帰りの仕事も当たり前です。
しかし20-40代保育士の平均手取り月収は約20万円という低さで、キャリアを重ねてもなかなか給料が上がらない職業となっているのが現状です。
保育士の資格を持っていても保育士の仕事に着いていない潜在保育士が多くなっています。
保育園登録者が増えているのに、です。
結果、保育園での受け入れ子ども数の減少に繋がっています。
保育園の数自体は増えているものの、自治体間で保育士の奪い合いも発生しています。
―■企業側からの解決アプローチ―
待機児童問題の解決に向けて国はいくつか施策を打ち出していますが、その中の一つが内閣府の「企業主導型保育」による保育の受け皿整備です。
待機児童問題とはとどのつまり、お父さんとお母さんの働く問題に直結していますので、これは職場サイドからの解決を図った取り組みです。
企業主導型保育の目的は男女問わず仕事と子育ての両立が可能な働き改革を実現するために、オフィス内での保育サービス整備を目指したもの。
企業主導型保育自体の魅力としては主に以下のようなものがあります。
・働き方に応じた多様で柔軟な保育サービスが提供できる(夜間・休日・短時間・週2日のみなど)
・複数の企業で共同設置することができる
・他企業との共同利用や地域住民の子どもの受け入れができ、地域枠定員の50%以内ならば自由に設定ができる(設定しないことも可能)
・認可外保育施設には分類されますが、一定の条件を満たして都道府県に届け出を行えば認可保育施設並みの助成(運営費・設備費)を受けることが可能
・設置後運営を委託することも可能
・駅の近くや社宅の近くなど、本社所在地以外でも設置できる
など、運営する側にとっては取り組みしやすい設計となっています。
ちなみに、これと似た制度に「事業所内保育(企業内保育)」というものがあります。
これは2015年4月からスタートした「子ども・子育て支援新制度」に基づく、市区町村の認可が必要な事業です。
域型保育事業の一部である「認可保育施設」となります。
つまり、公立・私立の認可保育施設と同様に、自治体に「保育の必要性」の認定を貰わなければ利用できないといった制限があります。
これは事業所の従業員枠の利用であっても変わりません。
一方企業主導型保育は、企業と利用者との直接契約であるため、保育認定がなくても利用可能で、認可保育施設では弾かれてしまう一時預かりも、企業主導型保育では可能といった柔軟は利用形態が可能です。
―■大禅ビルの「四季のいろ保育園」―
平成29年5月に当社1階にも企業主導型保育施設がオープンしました。「四季のいろ保育園」
「四季に合わせた文化の継承を目標とし、地域とふれあいながら、子ども達の育成に努める」
を保育方針とし、温かみのある木目調をあしらった素敵な空間で、地域の子どもたちと、優しく面倒見のよい保育士さん(保育士有資格者100%)で賑わっています。
企業様向けの法人契約を行っており、育児休業を取られた企業の社員が安心して職場復帰できる環境を作るため、法人契約により従業員の子どもが入園できる「園児枠」を確保するというもの。
これによって年間を通していつでも社員の子どもの受け入れが可能になります。
そして企業側にとっては自社の福利厚生の強みが生まれるため、採用活動にプラスに働き、産休明けの職場復帰、職場定着にも大いに寄与するという効果も得られ、ご利用の企業様の皆さんに大変喜ばれています。
頑固一徹な老舗の貸しオフィスビルとして舞鶴の地に長年鎮座してきた大禅ビルの足元で、子どもたちのあどけないはしゃぎ声が聞こえるようになりました。
なんとも微笑ましい光景を見ながら、不動産さんというのは使い方次第で街の風景と人の幸せを創るものだと改めて気づかされました。
不動産を持つ者として、社会の問題解決を目指し、他者の幸せに関わる大禅ビルであり続けたいと思います。