―貸しビルはなくなるか?―
「働く場所」の捉え方の変化
オフィスは言わずもがな人々にとって「働く場所」であり続けてきました。
しかしながら、働き方が変化すれば、オフィスのあり方に影響を与えるのは自然な流れのように思えます。
働き方に最も大きな影響を与える要素の一つは「テクノロジー」の進化です。
パソコンを例にとってみますと、昔はデスクトップのパソコンしかありませんでした。
そのため、オフィスの自席でしか使えなかったです。
それが、今はパソコン、タブレット、スマートフォンとデバイスも携帯しやすく軽量化、
小型化、多機能化し、極端な話それらを持ってさえすえればどこでも仕事はできるわけです。
もちろん、スーパーといった店舗での対面サービス業や工場のように、
業種によっては人がその場にいるのが必要なケースもあります。
しかし、EC(電子商取引)の勃興やRPA=(ロボットによる業務自動化)の普及を目にすると、人の働き方の有り様についても再考を迫られるように感じます。
テクノロジーの発達によって職場の姿が大きく変化し、在宅勤務、モバイルワークのような多様な働き方が進んでいきます。
完全な在宅勤務、モバイルワーカーはまだ少ないにしても、不定期にこのような働き方する人は増えてきています。
そしてこの変化は、一人あたりに必要とされるオフィス面積や固定コストとしての賃料に影響を与える可能性があります。
オフィスにいなくても仕事ができる、あるいはオフィスにいても、どこでも仕事ができるという状況になれば、社員一人ひとりにデスクと固定電話が必要ということはなくなります。
デスクスペースを効率的に使えるようになれば、一人当たりの専用オフィススペースは大幅に削減できるというわけです。
実際に5年前から本格的にモバイルワークを導入して働き方改革を進めてきた日本マイクロソフト。
同社は、品川の本社オフィスで従業員1人当たりの専用オフィススペースを約4割削減することに成功しています。
また今年1月に大手町パークビルに本社を移転した三菱地所も、やはり従業員1人当たりの専用オフィススペースは約4割削減しています。
全員分のスペースをきっちりオフィス内に用意する時代から、少しずつ状況が変わってきているのは確かです。
加えて、チームや勤務地の分散、フリーランス・請負業者の活用の増加・・・
そして都市部の交通網の拡大により、都市中心部に集約的なオフィスを持つことの重要性が薄れてきています。
中心部から離れた地域のほうが、不動産価格がより手頃でもあります。
サードプレイスオフィス(外出先でオフィス同様の環境で働ける補助的なワークプレイス)やサテライトオフィス(自宅近郊でオフィス同様に働ける郊外型オフィス)の登場もこの流れに沿った動きでしょう。
オフィスの「カタチ」の多様化
働く場所は集約から分散へ、オフィスワーカーは固定(時間、場所、集団)からフレキシブルに。
オフィスに対するマーケットニーズの変化は、オフィスに新しいカタチをもたらします。
貸会議室を始めとし、シェアオフィス、コワーキングオフィス、SOHOなど新しいオフィスの形態が誕生しています。
施設を柔軟に利用できるため、費用を節減できます。
今では当たり前の光景となった「カフェで仕事」というシーンも、ある種オフィスの一つの形でしょう。
コーヒー一杯で一日中カフェの電源付きテーブルで粘る強者もいるくらいです。
まあ、お店側にとっては迷惑なので、スタバでは最近長時間の勉強や作業の利用には厳しくなっていますが。
そしてオフィスの最終形態は、そもそも通勤すら必要ない「自宅」なのかもしれません。
本社をなくし、勤怠管理もなくし、100%リモート勤務を行うシステム開発会社も出てきています。
様々な人が、色々ニーズを持ってオフィス空間を利用するため、それらのニーズを反映して従来にない機能をオフィスが持ち始めています。
3Dプリンターなど工作機械の揃うものづくりスペースや、ジム、カフェ、売店の併設、中には音楽スタジオを設置した施設もあるくらいです。
知的想像活動の目的に応じて様々な場が創られ始めています。
スーツにネクタイのホワイトカラーのサラリーマンたちが、日がな一日デスクの前で作業・・・
少なくとも日本では今もこれが多数を占めるオフィスでの光景ですが、時代は着実に変化しています。
貸しビル側にとって
「標準化・規格化されたオフィスを貸す」
から
「やりたい仕事を、やりたいようにできる場をみんなで創る」
への意識転換を刺激する変化でもあるように思えます。
外部との相互交流、そして連携・共創による新たな価値づくりのチャンスを孕んでいます。
オフィスと働く人との関係性
オフィスという物理的な空間へのこだわりが減るのは、逆にオフィスの存在意義を一層深掘りするきっかけにもなります。
オフィスに行かなくてもよくなる時代の流れの中で、敢えて時間と労力をかけてまでオフィスに集まる。
その意味は何か、そこで何をするのか。
ポイントは2つあるように思います。
一つは「リアルコミュニケーションの場」です。
どれだけ通信技術が進んでも、どれだけリモート勤務が普及しても、フェイス・トゥ・フェイスのリアルコミュニケーションの場で交わされる情報の量と密度にはかなわないでしょう。
お互いが向き合い、同じ空気を吸い、時には同じ飯を食べる。
取り結ばれる関係、雰囲気、心の機微。
リアルな場では未だデジタルに変換できない要素は多くあります。
お互いのことをよく知らない複数メンバーで新しいプロジェクトを始める際も、キックオフミーティングをスカイプ上ではなく居酒屋でやったほうがいいのはこのためです。
熱気も共有されるのでギアもかかりやすいでしょう。
遠隔勤務が増えるにつれ、実際に顔を合わせるミーティングの重要性が大きくなると考えられます。
多くの研究で証明されているように、人との物理的に近い距離で仕事をすれば、生産性が向上し知的創造が生まれる傾向にあります。
逆に言えば、働く人の生産性や知的創造に寄与し得ないオフィスならば、人に集まって貰う価値はないということです。
二つ目は「場としての付加価値」です。
先述した通り、建物という「ハコ」に加えてプラスαの価値をオフィス利用者に提供していかなければなりません。
すでに不動産各社は、2020年の東京五輪招致を機に大規模再開発プロジェクトを進めており、今年からは新規オフィスの大量供給が始まります。
働き方改革が進み、必要とされるオフィス床面積が今後縮小すれば、オフィスストックは増加し続け、大量のデッドストックの発生が懸念されます。
このスペースをいかに借りて貰うのかは、働く人がオフィスに求める価値をいかにキャッチアップするかが重要と思われます。
オフィスのこれからの付加価値とは?
付加価値化の領域は具体的には3つあります。
それぞれ「ハード」「利用形態」「場づくり」です。
「ハード」については、創造性や生産性向上に役立つ共用スペースや、従業員の待遇改善につながる保育所などの福利厚生施設などの設置です。
共働き世帯の増加に一方、待機児童問題が社会化しています。
子育てと家族、ワークライフバランスは働き方を選択する上で重要な判断基準となっています。
「利用形態」はサテライトオフィスやシェアオフィスなど、モバイルワークやスペースシェアの流れに適した利用形態を展開することで新たなオフィス需要を取り込むことです。
三井不動産といった大手ディベロッパーは既に法人向けシェアオフィス事業を展開しています。
そして「場づくり」とは、新産業を創出する可能性のあるスタートアップやベンチャー企業、個人事業主のビジネス交流拠点としての魅力を高めていくことです。
最近では大企業が新規ビジネスを創出するために、オープンイノベーションの一貫として革新的なアイデアや技術を持ったスタートアップと連携する動きが活発化しています。
企業の規模、法人か個人かに関わらず、これからは連携と共創により新しい価値を自由に創っていく時代です。
企業間を隔てる境界線は曖昧になり、オフィスビルも概念も、従来のような壁によってテナントごとを区切る閉じられた形ではなく、
襖、障子、屏風で自由自在な空間づくりができるような「日本家屋スタイル」にシフトしていくのかもしれません。
リアルな創造の場としての役割が、オフィスに益々求められていくでしょう。