米中貿易戦争について考えてみる②

大禅不動産研究室は大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃貸オフィス)が運営する「ちょっと役立つビジネスコラム」です。

 

不動産に限らず、地元ネタ、企業経営、歴史と人物、時事、海外ビジネス、職業研究について書いています。

 

今回のシリーズは「米中貿易戦争」です。

 

■「金融」というアメリカの切り札

ここまでは貿易領域での話でしたが、長期的な時間軸で米中間の対立を理解するには、違う視点からのアプローチが必要です。

 

中国には決定的に不利な条件が一つあります。

 

それは中国も「ドル体制」に依存する経済体であること。

 

ドル体制の意義は主に3つの側面から説明することができます。

 

一つ目は「ドルの還流メカニズム」。

 
ドル
 

特に輸出志向の国家に対し、アメリカは自国のマーケットを開放していますが、貿易を通じて巨額の貿易赤字が発生しています。

 

そしてこの赤字は、相手国の保有するドルからアメリカ国債または社債の購入通じてドルがアメリカの資本市場に還流されることで補填されています。

 

世界中からアメリカに還流したドルによって米国債が買われ、国家予算が補填されるシステムになっているのです。

 

つまり中国が商品やサービスの輸出によってアメリカからドルを稼いでも、売上の大部分をアメリカに貸し出さなければならないわけです。

 

ドルは基軸通貨として国際通貨システムの中核に位置付けられ、広く決済と取引に用いられています。

 

もしアメリカにドルを貸さず、アメリカは自国で使う分のドルが不足した場合、ドルを刷って保有量を確保することになります。

 

市場のドル流通量が増えればドルの価値下落に繋がり、ドル保有国家のドル価値が目減りし、自国通貨の価値が上がり、特に輸出を行う国にとっては好ましくありません。

 

ドル体制の中で生きる貿易黒字国の悲劇は、自分たちの飯の種を守るために、ドルの為替レートの安定性を受動的に維持しなければならない点です。

 

アメリカが構築したドル体制をみんなで一生懸命支えてあげないといけない。

 

最大の債権国であるはずの中国が、最大の債務国であるアメリカの貨幣の安定に責任を負う。ドルの人質にされているわけです。

 

二つ目は「石油取引のドル計算メカニズム」です。

 

ニクソンがドル紙幣と金との兌換を停止し、ブレトン・ウッズ体制の終結を宣言したのは今から約半世紀前の1971年です。

 

ドルが金から切り離された後に直面した最大の問題は準備通貨としての地位の確保でした。

 

どのようにすればドルをもっと持って貰えるのか、通貨のマーケットシェアを取っていけるのか。

 

インフラの価値はユーザーの数で測られます。

 

アメリカはすぐに石油という「工業の血液」に目をつけ、サウジアラビアなどの産油国でドルベースの石油取引のメカニズムを構築したのです。

 

これによって他の国が石油を輸入したい場合ドルで支払わなければならず、したがって必然的にドルを準備しなければならなくなります。

 

このようにドルを持たざるを得ないようなゲームルールを作ったことで、ドルは金から切り離された後もなお世界の準備通貨のポジションを維持し続けられたのです。

 

三つ目は「対外債務の現地通貨建てメカニズム」です。

 

現在のところ、アメリカの対外債務の80%はドルを刷って支払うことが理論上可能です。

 

全く反則技もいいところで、極端な話、アメリカは借金を返済したければ世界の基軸通貨・ドルを印刷すれば済むのです。

 

実際には世界への影響力が大きいので、連邦準備制度と財務省によってドルの価値変動には細心の注意が払われていますが、

 

人類の歴史の中でこのような世界レベルで金融の規模と方向をコントロールできた国家はありません。

 

「金融の権力」とも言うべき力を揮える立場にアメリカはいるのです。

 

その利益の核心は、乱暴な言い方をすれば債務国でありながら、他国の制約を受けずに国債を大量に発行できる世界の通貨秩序そのものです。

 

■アメリカ内の対中姿勢

ただ米中関係の大前提として、君臨する大国・アメリカにとって最も理想なのは中国がこれ以上成長しないことです。

 

あけすけに言えば、手強い競争相手ではなく、いつまでも消費市場でいてくれた方が都合がよいわけで、
 
往年の日本に対して行ったようにあらゆる手を使って今のうちの勢いを削っていこうと意図があるでしょう。

 

トランプ政権内には、対中方針に関して二つの派閥があると言われています。

 

一つは、貿易不均衡などのビジネス分野で自国の利益獲得を目指す「通商派」です。

 

トランプ大統領がその代表格で、ほかに実業界やウォール街出身の人間たちが多い。

 

二つは、経済に限らず中国という社会主義国の台頭そのものが許せず、アメリカ覇権の脅威を見なしている「反中派」です。

 

貿易摩擦が貿易戦争にエスカレートしていった背景には、後者のグループのホワイトハウス内での台頭があったと言われています。

 

彼らは単に貿易不均衡という経済領域の課題よりも、中国共産党が運営する社会主義国家に対して敵意を抱いています。

 

彼らの主張をまとめると概ね以下のようになります。

 

「中国政府は自国の先端企業に多額の補助金を出すなどして育成を図っており、2015年5月に『メイド・イン・チャイナ2025』で国家目標を定めて以降、その傾向に拍車がかかっている。

 

これらは既存のWTO(世界貿易機関)の秩序から完全に逸脱している。

 

かつ中国は2018年3月に、全国人民代表大会で国家主席の任期を撤廃する憲法改正を行い、習近平長期独裁政権を目指している。

 

社会主義国家・中国は、かつてのソ連をも超える軍事的・経済的脅威だ。

 

これは民主主義と安全保障の脅威であり、我が国の経済覇権を中国に奪われかねない」

 
WTO
 

また先日、アメリカの国務省の政策立案局のトップであるキロン局長が

 

「米ソ冷戦時代、われわれの戦いはいわば西側家族間の争いのようなものだった。

 

しかし、今後アメリカは史上初めて、白人国家ではない相手(中国)との偉大なる対決に備えていく」

 

と発言し、米中の対立を「白人・非白人」という人種の違いに基づく「文明間の衝突」の文脈から捉えている姿勢を示しました。

 

時代錯誤な偏見とイデオロギー観を押し隠そうともしないあたり、アメリカの対中姿勢の熱量を感じざるを得ません。

 

こうしたことから米中閣僚級貿易協議の議題は、当初の貿易不均衡問題から一気に膨らみ、以下のように複雑化していきます。

 

①米中貿易の不均衡

 

②中国におけるアメリカ企業に対する強制的技術移転

 

③中国における知的財産権の強力な保護

 

④中国におけるアメリカ企業への関税・非関税障壁

 

⑤中国によるアメリカへのサイバー攻撃

 

⑥中国政府の補助金と国有企業を含む市場を歪める強制力

 

⑦中国向けアメリカ製品・サービス・農産物への関税障壁

 

⑧米中貿易における通貨の役割

 

トランプが中国に対して強硬なスタンスを取るようになってから彼の支持率は上向きに転じ、2018年には40%以上に達しています。

 

トランプ政権になってから共和党と民主党の主張の対立は数多くありましたが、

 

中国に立ち向かうのは国家安全保障と米国の経済権益を保護するために価値ある行いだという点で意見の一致を見ています。

 
ドナルド・トランプ
 

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