建築史シリーズ 歴史主義

弊社、大禅ビルが行っております貸しビル業は、本質的には空間に付加価値をつけていくプロデュース業だと考えています。

 

そのような仕事をさせて頂いている身ですから、建築やインテリア、ファッションといったデザイン全般にアンテナを張っており、

 

そこで得たヒントやインスピレーションを大禅ビルの空間づくりに活かすこともあります。

 

とは言え、私は専門的にデザイナーとしての教育を受けたことはありませんから、本職の方々と到底比べられません。

 

本物のデザイナーというのは、既存の概念を超越するような美を生み出すアーティストに近い存在と言ってよく、その足跡の後には全く新しい地平が拓けていくものだと思っています。

 

このシリーズではそうしたデザイナーたちが紡ぎ上げてきた建築の歴史を中心にご紹介していきます。

 

◯華やかな歴史主義の興り

今回ご紹介するのは「歴史主義」。

 

19世紀から20世紀はじめごろのヨーロッパで興ったゴシック建築やルネサンス建築など、中世から近世の西洋の古き良き様式への復古を目指した建築潮流です。

 

この潮流は、古代ギリシア・ローマの建築を理想とした新古典主義建築と、モダニズム建築との挟まれた時期に現れています。

 

類似する用語に折衷主義がありますが、両者の違いは、歴史主義が過去の建築様式のリヴァイヴァルを本旨としているのに対し、折衷主義は特定の様式にとらわれず、いいとこ取りをして建築家の作意により複数の様式を組み合わせて造形することにあります。

 

折衷主義の建築として知られている名作の一つは、ハンガリー国会議事堂。

 
ハンガリー国会議事堂
 

開口部はルネサンス風。ドーム、フライングバットレス、尖頭といった細部はゴシックを採用しています。

 

産業革命以降、鉄、ガラスといった新しい素材や技術が誕生したものの、西洋は歴史様式のリバイバルを約1世紀半もの間、繰り返していました。

 

その理由は、フランス革命~ナポレオン戦争以降、議会制民主政治が進展しはじめたとはいえ、基本的には王朝と貴族が支配する君主制が第一次世界大戦まで続いたためです。

 

ロマネスク、ゴシック、バロックといった様式は、当時最高の建築工匠や建築家によるもので、経験と知恵、確かな工法による究極の産物でもありました。

 

そのためこの時代の建築家の役割は、「様式という枠の中でより美しいバリエーションをつくること」だったのです。

 

これが、歴史主義の本質です。

 

しかし、結果的には過去の建築様式を専ら「装飾の技法」に封じ込めることにもなり、ありとあらゆる様式をいろいろな用途の建物に採用したため、「節操を欠いている」という批判も出てきます。

 

これが先述の折衷様式ですね。

 

この時代の建築家たちは、近代社会が必要とした新しい時代の様式を生み出す必要に迫られていました。

 

思想の具現化を模索した結果、少しずつ過去様式とは一線を画すような建築が現れてきます。

 

それが近代建築の幕明けとなっていきました。

 

◯歴史主義の代表作

トラヴェラーズクラブ&リフォームクラブ

 
トラベラーズ・リフォームクラブ
 

ネオ・ルネサンス様式(イタリア・ルネサンスのリバイバル)と称されるロンドンの建築です。

 

ルネサンスはもともと都市的な様式だったため、図書館やクラブ建築といった都市的な建物との相性は良かったと言われています。

 

バイエルン州立図書館
 
バイエルン州立図書館
 

イタリア・ルネサンス風ながらルントボーゲンシュティール理論の影響が見られます。

 

その理論の特徴としては、石材が乏しかったドイツでレンガを主要材料として作られた、合理的かつロマネスク風の半円アーチなどです。

 

ファサードにはシンプルで力強い開口が整然と並んでいます。

 

イギリス国会議事堂に倣い、ルネサンス風の左右対称の構成にゴシックのディテールを自由に適用した折衷主義です。

 

ブルグ劇場

 
ブルグ劇場
 

ネオ・バロック様式(バロックのリバイバル)です。

 

ジャイアントオーダーをもつ前面に、突出した半円形のホワイエと大階段のために両腕を広げています。

 

パリのオペラ座にも採用され、その無類の豪華さで絶賛されました。

 

◯産業革命で一変した建築界

近代西洋建築に多大な影響を与えた出来事、それは「産業革命」です。

 

なんといっても鉄の大量生産が可能になったのです。

 

高炉とコークスで鉄鉱石を溶かし、銑鉄の大量生産が可能になります。

 

しかし銑鉄は炭素を多く含み、そのままだと脆いので、いかに炭素含有量を減らすかが良い鉄を作る鍵でした。

 

鉄のメリットは、石やレンガに比べると著しく強度が高く、細い部材で大スパンを構築することが可能な点です。

 

そんな大変革の時代、戸惑う建築家たちを横目に、技術者たちは橋や塔、工場といった実用第の建築にいち早く鉄を取り入れはじめました。

 

ただ、鉄という材料は当時あまりに先進的だったので、いくら力学的に安定していたとしても、伝統的な柱よりはるかに細い鉄柱などに対して、人々の不安を払拭するのは容易ではありませんでした。

 

また石とは性質があまりに違うので、オーダーのような様式を与えることも難しいものでした。

 

なので、駅舎などの鉄の建築の大部分は、積石造のファサードの背後に隠されていたのです。

 

しかしながら、エッフェル塔のような巨大構造物の誕生は、次なる建築様式の誕生を期待させるものでした。

 
エッフェル塔
 

またパサージュやアーケード、中庭には、鉄とガラスによる屋根が架けられるようになります。

 

それまでの建築では屋根は必ず重厚な壁や柱によって支えるものでしたが、鉄であれば屋根に覆われているのにも関わらず、明るい内部空間が実現できるわけです。

 

そうして、歴史主義の公共建築にも鉄が導入されていったのです。

 

◯鉄だからこそ実現できた新しい建築

鉄が使われた歴史主義建築の代表格がパリ国立図書館です。

 
パリ国立図書館
 

鉄の特性である強度は部材の細さを実現し、華奢な鉄柱と優美なアーチがバランスよく配置され、軽快な空間をつくり出すことに成功しました。

 

石造と比べ物にならないほどのシャープさ、アーチやヴォールトも大変優美に装飾されています。

 

また石造では成し得なかった採光豊かなな大空間も特筆すべき点です。

 

こうしたデザインによって、鉄の建築は実用性や構造強度のみならず、美的側面による可能性も高めていきます。

 

鉄は近代建築の幕明けを告げるにふさわしい素材の一つとなり、新たな形態や空間を生み出していくことになります。

 

また、産業革命を契機として、それまで高尚な総合芸術家であった建築家たちは、構造や力学といった工学的知識を身につける必要に迫られました。

 

それによって工学教育の場として建築学校が続々と誕生するとともに、建築家という職種を保証するための建築家協会も設立されていったのです。

 

以上、大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃貸オフィス)からでした。

 

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