建築史シリーズ 日本の近代建築⑨
弊社、大禅ビルが行っております貸しビル業は、本質的には空間に付加価値をつけていくプロデュース業だと考えています。
そのような仕事をさせて頂いている身ですから、建築やインテリア、ファッションといったデザイン全般にアンテナを張っており、
そこで得たヒントやインスピレーションを大禅ビルの空間づくりに活かすこともあります。
とは言え、私は専門的に教育を受けたことはありませんから、本職の方々と到底比べられません。
本物のデザイナー、建築家というのは、既存の概念を超越するような美を生み出すアーティストに近い存在と言ってよく、その足跡の後には全く新しい地平が拓けていくものだと思っています。
このシリーズではそうした美に携わった先人たちが紡ぎ上げてきた建築の歴史を中心にご紹介していきます。
◯モダニズムのアップデート
現代の全ての高層ビルは、2つの建築理念に基づいて建てられています。
一つは「ユニバーサルスペース」。
ユニバーサルスペースはモダニズムの理念の一つで、内部空間を限定せず自由に使えるようにしようというものです。
もう一つは「ドミノシステム」。
ドミノシステムとは、床やそれを支える柱、それらを繋ぐ階段という最小限の要素で構成された部材によって、建築を大量生産するためのシステムです。
空間の最大限の活用に絞ったこの二つの理念が組み合わさることで、均質的かつ合理的な空間を作り出すことができたのです。
しかし、機能性を突き詰めた空間は、人が心地よく過ごす場として本当にふさわしいのでしょうか?
その問いに対する一つの答えとして、伊東豊雄による「せんだいメディアテーク」が挙げられます。
せんだいメディアテークは宮城県仙台市青葉区にある公共施設で、仙台市民図書館、イベントスペース、ギャラリー、スタジオなどが備えられています。
伊東豊雄は均質空間に対して場所の変化を与えるため、徹底的に薄いスラブ、海草のようなチューブの柱、ファサードのスクリーンという3要素をピュアに表現することを考案しました。
ユニバーサルスペースはグリッドによる幾何学の均質空間ですが、それをランダムな柱によって人工グリッドを消し、フレームも消しました。
柱はねじれたチューブ状となっており、粘り強く空間の不均質性に寄与する構造となっています。
造成に当たっては造船技術が採用され、溶接で作っていくという高難度の施工が実施されました。
建築によって人の行動を規制するのではなく、森の中のように本能的に居場所を見つけられるような場が生まれました。
不均質なユニバーサルスペースとも言えるこの建築は、世の中に衝撃を与えました。
また透明であるがゆえに中の様子がわかりやすく、利用者が気軽に訪れやすくなったそうです。
◯光り輝くガラスの宝箱
高級ブランド、エルメスのことは知っている方も多いと思います。
メゾンエルメスはエルメスにとって日本初となる旗艦店となるため、大変重要なプロジェクトでした。
設計を任されたのはレンゾ・ピアノ。
パリのポンピドゥー・センターや関西国際空港といった名建築を手掛けてきた建築家です。
銀座の数寄屋橋の交差点に建つメゾンエルメスは圧倒的な存在感を放っており、なんと1万3000個ものガラスブロックが使われたそうです。
コンセプトは「都市を照らす提灯」。
半透明のガラスブロックは、昼間は太陽の光を受けて薄青色に、夜になると内部からの光が漏れだして、建物全体が優しいオレンジ色に光ります。
ちなみにガラスブロックはイタリアの工房で特注して日本に運んだものです。
ピアノはヴェールに包まれているような透明な内部空間を求め、ガラスブロックを採用したのですが、その特性を最大限活かすために、建物の構造設計が肝心になってきます。
検討を重ねた結果、地震力は店舗背後の架構に力を集中させました。
積み上げられているように見えるガラスブロックは、実は上からつり下げるような形で支えられています。
そうすることで柱は細くなり、細長い敷地に合ったスレンダーな構造体となります。
地震時はそれぞれのブロックがわずかな幅で揺れ動き、柱が浮かび上がり、全体で揺れを逃すという仕組みになっています。
この仕組みにより、柱を浮かない時と比べて引張力を1/3に抑えることができ、柱を550mm角まで小さくできました。
外壁面に設備開口なども一切見えないため、まるで大きな光の宝石箱のようです。
内部のギャラリーもガラスブロックによって抽象的な空間となっており、足元のガラスブロックが地面レベルで浮いているため、無重力のような浮遊感を醸しています。
銀座というきらびやかな街にふさわしい、洗練された建物ですね。
◯斬新な間取りの可能性・森山邸
西澤立衛が設計を手がけた「森山邸」は、東京都内の住宅地に建つ賃貸+オーナー住宅です。
高さもサイズも内部の階数もそれぞれバラバラな建物が10棟、敷地内に点在するように配置されているのが大きな特徴です。
なぜこのような作りになったのでしょうか?
元々は、賃貸の集合住宅と依頼主の自宅を一つの敷地の中に建てることがリクエストだったそうです。
依頼主はローンを組んでこの住宅を建てるのですが、ローン返済後は賃貸をやめて、集合住宅であった部分も自分たちで使っていきたいと考えていました。
つまり、ローンが返済されるにしたがって徐々に自宅を広げ、最終的には敷地内の建物を全部自分の家にするという計画です。
一棟一棟を徐々に自宅にしていくので、全部が同じような部屋では面白くないと考えた西澤氏は、それぞれ違った形を各部屋に与え、さらに敷地内に部屋ごと分散させたのです。
森山邸は1棟で住宅の機能を満たすものもあれば、「リビングだけ」「浴室だけ」の棟もあります。
分棟にすることで一つ一つのボリュームを低減させ、周囲の街並に対する圧迫感を減らしています。
壁も薄くできているため、とても軽やか。
また分棟にすることで、適度な余白が生まれています。
この余白によってさまざまな大きさの庭ができました。大小いろいろな窓で内部からは変化に富んだ風景を楽しむことができます。
家具や内装、建築、さらに街が全部一体として繋がるように計画されています。
緑に包まれた気持ちのいいダイニング、空に近く眺めのいい寝室、ちょっと独りになりたい時の離れなど、森山邸の豊かな空間は生活を一つの屋内で完結させないという発想から、屋外や全体に繋がることで可能になったのです。
以上、大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃金オフィス)からでした。