―建物の「価値」を再考する―
■従来の建物の価値評価
建物の価値を構成する要素に、まずビルの寿命が挙げられるでしょう。
人には寿命があるように、ビルにも寿命があり、使えば使うほど古くなります。
この「古くなる」には二つの意味合いあります。
一つは「物理的な寿命」
建物の寿命の考え方は様々ですが、何年使えるのか、何年後に取り壊して立て直す必要があるのか。
あるいは地震等で躯体に断裂が入った場合、寿命が一気に減る場合もあるでしょう。
建物の寿命が100年以上の欧米と異なり、天災が多く、新築信仰が残る日本では比較的ビルの寿命が短い傾向にあります。
建物を長持ちさせる上で大事なのは、建築時の設計・施工も大事ですが、一にも二にも点検とメンテナンスです。
大禅ビル(福岡 舞鶴 賃貸オフィス)が築45年のレトロオフィスビルとして活躍できているのも、修繕計画を作成し、それに沿った点検とメンテナンスを実施して来たからだと存じます。
もう一つは「社会的な寿命」
いわば時代遅れの古臭いデザインや現代の住宅ニーズに満たないスペックです。
洋室・洋式便器のない完全な和風建築などは、今の日本ではなかなか市場を獲得しにくいでしょう。
しかし、社会的な寿命は工夫次第で延ばせます。
ブランディングが一つの解でしょう。
大禅ビルの外観はいかにも昭和風のレンガ調ですが、レトロオフィスビルとして戦略的なリブランディングを行い、古さをむしろ個性として、価値に転換して参りました。
小洒落たビルが林立する舞鶴エリアにあって、昭和の代表選手のような居で立ちは否が応でも注目を惹きます。
もちろん、外観に加え、中身の設備、サービス、マネジメントには人一倍時間とコストをかけております。
そして可変性も、建物の社会的な寿命に関わる要素です。
時代の変化にリンクするのが社会的価値です。
であれば、社会のニーズに合わせて柔軟に改変していけるビルであれば、価値を可能な限り維持できるわけです。
スタートアップといった小規模事業者のニーズに対応した小さい間取りへの改修、シェアオフィスやフリーアドレススペースの配置、レンタル会議室、喫煙スペース、保育園の併設などなど。
いずれも大禅ビルがトライして来たものです。
商売の基本はお客様への問題解決、ニーズへのキャッチアップはビルの社会的価値を左右するのは論を俟たないでしょう。
■「立地」の重みは変わらず
工夫次第で建物の社会的な寿命は延ばせるのは確かです。
しかし数ある工夫の中でも、やはり「立地」は最重要事項に違いありません。
人に使って貰ってこそ建物の価値だとすれば、集客が見込める地の利の確保の不動産経営の要諦とも言えます。
「駅や繁華街との距離」
「周辺の治安、緑化環境」
「今後の都市計画」
「企業・人口の集積度」
「通行量」
「歴史的・文化的な価値」
「インフラの整備」
など、立地の評価軸は多々あります。
ビルの特性、戦略によって、エリアとのシナジーにおいて重視すべき評価軸は変わります。
例えば大禅ビルでは、自社の建つ舞鶴エリアの価値を以下のように整理・発信しています。
一つ目は「歴史・文化ゾーン」として。
飛鳥時代の国立国際交流施設・鴻臚館や、豊かな花木と蓮池に彩られ、「福岡」の始まりの地でもある福岡城など、古代から近代という日本のほぼ全歴史を含み、時代の薫りを留めた旧跡・名所が数多く残っています。
そして福岡城跡そのものが広大な舞鶴公園となっており、市民の憩いの場となっています。
そして少し足を伸ばせば福岡で最も美しい言われる大濠公園が広がり、能楽堂、日本庭園、市立美術館が周辺を固めています。
博多湾の青い海とともに、舞鶴の景観、つまり「顔」を作っています。
福岡有数の観光拠点、そして歴史と自然に彩られた高い文化性を備える「ビジネス&カルチャー」エリアとしてのブランドの可能性が舞鶴エリアにはあるのです。
二つ目は「オフィスゾーン」として。
福岡の商業地区・天神と博多に隣接する舞鶴エリアですが、その商業機能の集積レベルは相当なレベルです。
エリアの性格としてまず挙げられるのが「リーガルエリア」です。
福岡法務局、高等検察庁、裁判所(高等、家庭、簡易)の所在地であり、周辺を星の数ほどの法律事務所が固めています。
法曹関連機関に加え、公証役場(大禅ビル内)、中央区役所、年金事務所、保健福祉センターなど行政機関、更には郵便局、銀行(西日本シティ銀行、福岡銀行、北九州銀行)といったビジネスに不可欠なインフラも整っています。
企業も、ドコモ、東芝、電通、読売新聞、県水産会館など、有名どこが社屋を構えて集積しています。
交通インフラについて言えば、地下鉄、西鉄バスはいずれも徒歩圏内、更に福岡の中心部・天神へは徒歩15分、地下鉄で福岡空港へは10分とアクセスは抜群で、通勤・出張に最適なビジネス環境です。
三つ目は「文教ゾーン」として。
2014年に新しく設立された舞鶴小中学校がきっかけとなり、舞鶴エリアではファミリー向けマンションの建設ラッシュが進み、子育て世帯が確実に増加する見込みです。
中央図書館、市民センター、平和台陸上競技場、更に保育園、幼稚園も全て徒歩圏内。
仕事と生活が両立しうる、まさにワークライフバランスの実現にはうってつけの場でもあります。
■時代の要請に沿った新しい観点
近年は従来の価値評価に加え、時代に呼応した新しい基準も提示されつつあります。
それらは共通として、建物本体から出発するのではなく、使用する人を起点とし、建物の価値をヒューマンフレンドリーの文脈において再構築する点に特徴があります。
キーワードは「知のインフラ」「幸福」「環境配慮とサステナビリティ」「レジリエンス」の4つです。
・「知のインフラ」
オフィスビルについては、働き方改革の追い風もあり、働く環境への関心が高くなっています。
オフィスはいわば衆知を集結させる知の生産点のような存在で、知的労働を支えるインフラとして、優れたオフィスが求められるのは自然な流れのように思えます。
生産性・創造性を刺激するオフィス環境を、科学的な実証データに基づいてデザインする研究が進んでいます。
・「幸福」
人は一日の多くの時間を建物内で過ごします。
即ち建物は心身に影響を及ぼす一大要素と言えます。
だからこそ、健康、心地よさの観点からも建物の在り方が見直されつつあります。
入居者の健康に焦点を当てた建築デザインの新たな評価基準「WELL(WELL Building Standard)認証」はこの流れを汲んだ取り組みと言えます。
・「環境配慮とサステナビリティ」
環境性とは建物の環境品質、環境負荷を考慮し、サステナビリティを目指したデザインやマネジメントです。
有名どこは米国グリーンビルディング協会の運用するLEED (Leadership in Energy and Environmental Design)です。
環境に優しい「グリーンビルディング」を広める目的で作られた、オフィスのみならず様々な建造物に対応する評価基準です。
建物のライフサイクル(企画・新築・運用・改修)を通じた「CASBEE」(建築環境総合性能評価システム)による評価ツールの導入も進んでいます。
・「レジリエンス」
レジリエンスとは災害時にでも業務復旧・継続に優れた強靭性を指します。
不可抗力の部分もありますが、災害によってビルが頻繁に損傷して使えなくなったり、壊れて建物内の人に危害を与えたりするようなことを防ぐべく備えを行う必要があります。
建物には、オフィスビルのほかに、生活、医療、教育、インフラなど、個々に期待された機能・役割をもって暮らしの場である街を構成しています。
そのため、人の生きる基盤として不可欠です。
3.11以降、人が活動を持続的に行っていく建物づくりがより一層求められるようになりました。