建築史シリーズ ロココ&新古典主義
弊社、大禅ビルが行っております貸しビル業は、本質的には空間に付加価値をつけていくプロデュース業だと考えています。
そのような仕事をさせて頂いている身ですから、建築やインテリア、ファッションといったデザイン全般にアンテナを張っており、
そこで得たヒントやインスピレーションを大禅ビルの空間づくりに活かすこともあります。
とは言え、私は専門的にデザイナーとしての教育を受けたことはありませんから、本職の方々と到底比べられません。
本物のデザイナーというのは、既存の概念を超越するような美を生み出すアーティストに近い存在と言ってよく、その足跡の後には全く新しい地平が拓けていくものだと思っています。
このシリーズではそうしたデザイナーたちが紡ぎ上げてきた建築の歴史を中心にご紹介していきます。
◯心地よさを大事にする空間・コロロ
ルイ14世の豪華な装飾への反動と、堅苦しい宮廷から離れたいという心理から生まれたのがロココ様式です。
公的で巨大な空間でなく、より私的で個人的な快適さを求める傾向の現れでした。
つまり、心地よさの追求からはじまったもので、仰々しいバロックと違い、明るく繊細・優美だったのです。
壁面の分節にはこれまでの円柱やピラスターでなく、曲線を描く額縁になったところがポイントです。
空間を埋め尽くす自由で優美な曲線からは、古典的法則からの意識的な逸脱も感じ取れます。
角ではなく丸み、直線でなくやわらかな線で包まれた空間は優しく女性的といえるでしょう。
天井と壁面の境界が暖味になっていることで、一体的な室内に変貌しました。
これこそロココの本質で、それが彫刻・絵画・家具とともに、運然一体の世界となったオテル・ド・スーピーズはフランス・ロココの傑作と評されています。
ルイ15世が明るい色を好み、刺繍などの趣味もあったため、ロココは建築のみならず絵画、食器、工芸品へも広がりました。
バロックの反動でロココは生まれたのですが、その後、バロックに取り込まれてしまうところも面白い。
特にドイツではその魅力を探求し、ロココを積極的に取り入れました。
こうして生まれたロココは、その後、イタリア、ドイツ、スペインへと急速に普及していきました。
しかし、科学的合理性を求める声や、貴族伝統と教会の権威に対する批判の声が徐々に高まっていきます。
時代は啓蒙思想へと向かっていくわけです。
すると、ロココは軽薄で軟弱、バロックとともに「古典の本質を見失っている」と批判されることになります。
そして、男性的で厳格、端正なものが求められ、新古典主義建築が台頭して来るのでした。
◯新古典主義の誕生
18世紀後半になるとバロックやロココは、カトリックや王政の権威の象徴でもあったため、反発を受けはじめます。
また、この頃ポンペイなどの古代ローマ遺跡が発掘され、古代ギリシアのパルテノン神殿の実測調査もされるなど、考古学研究が進みました。
すると、古代建築のオーダーなどの「純粋な用法から逸脱するのはよくない」という声も高まっていきます。
さらに、啓蒙思想の理論や「高貴なる単純こそ至上」と考えるドイツの美学者ヴィンケルマンの主張などがあり、ギリシア芸術を評価する動きとなっていったのです。
ただし、ただ回帰するのではなく、マルク・アントワーヌ・ロージエのような新しい美学に基づき、合理的に考えて再解釈し、作っていったことが重要です。
そして、正確な歴史確認と理論によって、パリに新古典主義を理想とする建築が生まれます。
◯サント・ジュヌヴィエーヴ教会
柱·梁の純粋な構造美を高い純度で実現した新古典主義の傑作です。
しかしながら、円柱のみでドームを支えることや光溢れる空間をめざして、開口部を大きくかつ数多く取ることは、構造的に無理がありました。
柱をまとめ、大量の鉄材で補強することになり、当初めざした空間の質は変わってしまいます。
古代ローマ人たちがあきらめた「構造としてのオーダーの実現」は、1500年以上経ったパリのパンテオンにおいても同じ結末だったのです。
さて、この新古典主義の流れは、グリークリバイバル、さらにはゴシック・リバイバルへと繋がっていきます。
◯古典主義と新古典主義の違い
新古典主義には、ギリシアとローマ、それぞれを賛美する動きがありました。
そんな中、19世紀に入るとドイツでは正統なギリシア建築を忠実に再現するグリーク・リバイバルが広がります。
ここで、混同されやすい古典主義と新古典主義について説明します。
古典主義には、ルネサンス、マニエリスム、バロックといった様式が数えられます。
古代ギリシア・ローマのオーダーといったボキャブラリー(語彙)を用いて、変化させつつ古典要素で建築をつくるというものです。
一方新古典主義は、古代ギリシア・ローマの建築を考古学的正確さでリバイバルさせるものでした。
◯アルテス・ムゼウム
ドイツ最大の新古典主義建築家、カール・フリードリヒ・シンケルによる設計で、古代ギリシアのストアに想を得た博物館です。
古代ギリシアで「ストア」とは、市民のための多目的な建物で、商業施設や社交場でした。
フレキシブルな用途に対応し、同時に柱廊を巡らせるという構成で、目にする人々に美観を与える存在でもありました。
プランは幾何学的に、合理的にまとめあげ、使いやすい動線や採光計画などそつがありません。
パンテオンのドームを内部空間に融合させ、建物全体の美しさを演出しています。
ちなみに新古典主義は、その佇まいや理知的な存在から、知や美の殿堂である博物館や美術館に用いられることも多く、代表としては大英博物館などがあります。
一方、アメリカでは「自国を表現する様式」として、グリーク・リバイバルをより開花させました。
民主主義、学問、自由、そして美の源泉には「ギリシアがもっともふさわしい」と考えたのでしょう。
このような、国の立場や状況、文化的伝統によってふさわしい様式を探す流れは、ゴシック・リバイバルへと繋がっていきます。
以上、大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃貸オフィス)からでした。