デザイナーたちの物語 レンゾ・ピアノ
弊社、大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃貸オフィス)が行っております貸しビル業は、本質的には空間に付加価値をつけていくプロデュース業だと考えています。
そのような仕事をさせて頂いている身ですから、建築やインテリア、ファッションといったデザイン全般にアンテナを張っており、
そこで得たヒントやインスピレーションを大禅ビルの空間づくりに活かすこともあります。
とは言え、私は専門的にデザイナーとしての教育を受けたことはありませんから、本職の方々と到底比べられません。
本物のデザイナーというのは、既存の概念を超越するような美を生み出すアーティストに近い存在と言ってよく、その足跡の後には全く新しい地平が拓けていくものです。
■躍動する工業的な美
今回ご紹介するのはイタリアを代表する建築家、レンゾ・ピアノです。
建物の機能性を構成する工業部材や構造に関する技術を、単なる機能性の域を超える美的表現にまで昇華させた「ハイテク建築」の巨匠であり、近代建築の新しい可能性を切り拓いた先駆者です。
彼の出世作とも言えるのがパートナーとともに設計した「ジョルジュ・ポンピドゥー国立芸術文化センタ(通称;ポンピドゥーセンター)」です。
配管や鉄パイプ、エスカレーターといった設備が外にむき出しの斬新なデザインが世界を驚かせました。
また、彼の作品は日本でも見ることもできます。
関西国際空港ターミナルビル、熊本の牛深ハイヤ大橋、銀座のメゾン・エルメスは彼が手掛けたもので、
構造材が持つ工業感をダイナミックに躍動させる表現にレンゾの稀有なセンスを伺わせます。
皆さんも一度は目にしたことがあるのかもしれません。
■父の影響で建築の道へ
レンゾはイタリアのジェノバで建築家の家系に生まれました。
祖父は石工業を営み、後を引き継いだ父と叔父たちによって事業が拡大されました。
主な事業は住宅や工場の建設、建材の販売でした。
父のおかげでレンゾは小さい頃から建築の世界と近い距離にあったのです。
大学はミラノ工科大学で建築を学び、卒業後はイタリアの名建築家、フランコ・アルビニの事務所に在籍しながら、アメリカとイギリスを行き来して修行を積みました。
そして1965年に事務所を設立し、建築家としての活動をスタートさせます。
■モダニズム建築へのアンチテーゼ
ポンピドゥー・センターのような、鉄管などの構造材をわざと外部に露出させ、積極的な建築表現としていく流れは1960年代頃から始まるのですが、
それは従来のモダニズム建築に対する挑発という文脈もあったようです。
モダニズム建築以前のバロック様式などに代表される古来伝統な西洋建築では、重厚な石や華麗な装飾が美の表現の主流でしたが、
合理性と機能性にこそ建築の美が宿るとするモダニズム建築の潮流が近代になって生まれ、室内空間を最大限活用できるシンプルで直線的な構造、
採光に優れた広い窓、機能性と合理性に寄与しない装飾を省くといった率直な建築が戦後もてはやされるようになります。
しかしそのモダニズム建築に対しても異を唱える流れが生まれてきます。
「結局モダニズムは機能性、合理性が大事だと言いながら、配管といった機能性と合理性を作る構造物を隠したり、
窓を比例関係で形を整えたりして、わざわざ手間をかけて美を演出している。これは欺瞞ではないか?」
「機能的、合理的な構造物が例え醜くても、外に現れていた方がむしろ誠実ではないか? 」
そうしたモダニズムへのアンチテーゼとしての「ポストモダニズム」の潮流が1960年代頃から出てくるようになったのです。
レンゾのポンピドゥー・センターもそれに位置づけられる作品と言えます。
この作品では、通常デザインの要素としては用いられない構造フレーム、ダクト、ファサードに沿った巨大なエスカレーターなど、
本来隠すべきもの、あるいは移動インフラでしかない技術的な要素が外観に組み込まれており、
そういった意味で既存の建築のあり方に対して大きな挑発がなされています。
歴史的な建物が建ち並ぶパリの市街地の真ん中という立地も、なかなか皮肉が利いています。
加えて彼がポンピドゥー・センターに込めたコンセプトには反アカデミズムもあったようで、彼自身はこの作品がハイテク建築と呼ばれていることに異論を持っていたようです。
高度な技術を訴求する意図は本来なく、芸術文化が専門的な場所に閉じ込められていることへの反発が根底にあったため、
美術館らしい美術館よりも、敢えて工場、作業場のような美術館にしてやろうという試みだったのです。
■関西国際空港旅客ターミナル
日本にあるレンゾ建築を3つご紹介します。
一つ目は「関西国際空港旅客ターミナル」。
1988年、レンゾが大阪港の人工島に建設される新空港の国際コンペで優勝し、携わった建築です。
空気力学の形態と飛行機の離陸後の姿がコンセプトとされ、上空から全体を見ると翼を広げた鳥のような形となっています。
メインターミナルは1.7kmと非常に長く低く、管制塔の管制官が滑走路上の航空機を常に見ることができるように設計されていました。
曲線を描く長い屋根は、太陽光を反射する8万2千枚のステンレスパネルで覆われ、長さ83メートルのアーチで支えられおり、
内部では、空気の流れに沿った屋根のもと、広々とした空間が生み出されており、外部内部ともに開放感を創り出しています。
■牛深ハイヤ大橋
2つ目は「牛深ハイヤ大橋」。なんと九州にもレンゾ建築があったんですね。
熊本県内の牛深港に架かる大橋で、883mと熊本県内最長を誇ります。
歩きながら海上からの景観が楽しめる散策道もあります。
設計コンセプトは「海上に浮遊した一本の線」。
自然に馴染むようという配慮からシンプルかつ最小限の橋桁で構成され、また風の振動を抑えるため風除板が採用されています。
橋側面の流線に沿った風除板の並びはまるでのエンジンのファンブレードを思わせる造形ですね。
技術面での課題解決をそのままデザインに昇華させた点にレンゾのセンスが光ります。
■銀座メゾンエルメス
最後に「銀座メゾンエルメス」。
銀座の数寄屋橋の交差点に建つ光るガラスブロックの外観が圧倒的な作品です。
なんと1万3000個ものガラスブロックを使っているそうです。
コンセプトは「都市を照らす提灯」。
半透明のガラスブロックは、昼間は太陽の光を受けて薄青色に、夜になると内部からの光が漏れだして、建物全体が優しいオレンジ色に光ります。
ガラスブロックはイタリアの工房で特注して日本に運んだもの。
耐震構造となっており、積み上げられているように見えるガラスブロックは、実は上からつり下げるような形で支えられています。
地震時はそれぞれのブロックがわずかな幅で揺れ動き、全体で揺れを逃すという仕組みになっています。
銀座というきらびやかな街にふさわしい、洗練された巨大な提灯ですね。
■近代建築のルネサンスの旗手
1998年、レンゾは建築のノーベル賞と称されるプリツカー賞を受賞します。
審査員からは「ミケランジェロやダ・ヴィンチと比較し、近代建築とポストモダン建築を再定義した」と最大の賛辞を贈られました。
2006年にはTIME誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれ、芸術とエンターテインメント」部門では10位でした。
2013年にジョルジオ・ナポリターノ大統領からイタリア上院の生活上院議員にも任命されています。
そんな巨匠の作品が日本にあって、いつでも目にできるのは、やはり嬉しいことですね。
以上、大禅ビルからでした。