建築史シリーズ モダニズムの建築たち②

弊社、大禅ビルが行っております貸しビル業は、本質的には空間に付加価値をつけていくプロデュース業だと考えています。

 

そのような仕事をさせて頂いている身ですから、建築やインテリア、ファッションといったデザイン全般にアンテナを張っており、

 

そこで得たヒントやインスピレーションを大禅ビルの空間づくりに活かすこともあります。

 

とは言え、私はデザイナーとして専門教育を受けたことはありませんから、本職の方々と到底比べられません。

 

本物のデザイナーというのは、既存の概念を超越するような美を生み出すアーティストに近い存在と言ってよく、その足跡の後には全く新しい地平が拓けていくものだと思っています。

 

このシリーズではそうしたデザイナーたちが紡ぎ上げてきた建築の歴史を中心にご紹介していきます。

 

◯北欧のナショナルロマン主義

フィンランドの建築家エリック・ブリュッグマンが設計した復活礼拝堂は、戦争で亡くした友人への祈りを込めて設計されました。

 

 

シンプルなその建物はフィンランドの古都トゥルクの静かな森の中にひっそりと佇んでいます。

 

ナショナルロマン主義(北欧古典主義)の代表的な建築で、従来の教会にあるようなステンドグラスや宗教画などの要素を排除し、地域性や伝統的な技術を用いてできています。

 

建物に差し込んでくる日の光や祭壇とともに映し出される森の風景、そして十字架の背後に伸びるツタ状植物などの自然の要素を建築に上手に取り込んでいます。

 

祭壇とその後ろの壁一面に優しい明りを採り入れるため、サイドの壁に全面開口部が設けられています。

 

 

復活礼拝堂曲面が美しい内部は、人の視線と光と外庭の方向を意識して丁寧に設計されています。

 

通常、教会の椅子は祭壇正面に向いていることが多いですが、この礼拝堂では左側に30度ほど斜めにずらして椅子を配置し、光の方向、祭壇の方向を向くように意図されています。

 

そうすることで外部にも視線を向かせて美しい松林の存在を感じることができるようになっています。

 

ナショナルロマン主義は北欧の風土や自然をデザインに取り込もうとする姿勢が見て取れることが特徴で、世界共通言語となったモダニズムとは対極にあります。

 

この北欧ならではの柔軟性はのちの北欧モダンにも引き継がれ、いまの北欧らしさにつながっているのです。

 

◯モダンな「森の墓地」

スウェーデンのストックホルムにある「森の墓地(スコーグスシュルコゴーデン)」は、エリック・グンナール・アスプルンドとシーグルド・レーヴェレンツの2人の建築家によって設計された近代墓地の傑作です。

 

 

森の墓地は、1914年から1915年にかけて行われた新しい墓地の設計コンペ「ストックホルム南墓地国際コンペティション」の結果として生まれました。

 

当時まだ無名であった若き建築家アスプルンドとレーヴェレンツの協同応募案が1等に選ばれ、2人が設計者として指名されました。

 

敷地は、松の木が生い茂った古い砂利の採石場でした。

 

コンペの結果が発表されてから、この墓地の主要施設である森の火葬場が1940年に竣工するまで、25年間という異例の長期間にわたり設計と施工が続けられました。

 

1994年に、ユネスコの世界遺産に登録されています。

 

自然石の乱張りの十字架の道はゆるやかな勾配をなし、大礼拝堂のロッジアに至ります。

 

花崗岩でできた巨大な聖なる十字架は「生→死→生」という命の循環のシンボルとなっています。

 

十字架の東側には「森の火葬場」と大礼拝堂である聖十字架の礼拝堂、希望の礼拝堂、信仰の礼拝堂があります。

 

森の火葬場は、2つ並んだ小礼拝堂とロッジアのある大礼拝堂、火葬場を合わせた追悼空間となっています。

 

1920年、一番最初にアスプルンドが設計した森の礼拝堂が完成しました。

 

 

松林の奥に、柿葺きの寄棟屋根の小さな礼拝堂が現われます。

 

内部はトップライトからの静かな光に満ち溢れる半円形ドーム空間になっています。

 

レーヴェレンツ設計の復活の礼拝堂は 1925年に完成しました。

 

◯モダニズム様式の集合住宅

ル・コルビュジエにとってフランスではじめての公共的な事業となった集合住宅がマルセイユのユニテ・ダビデシオン(=住まいの統合体)です。

 

 

ここには暮らしに関わるさまざまな機能が詰め込まれています。

 

長さ165メートル、幅24メートル、高さ56メートルのこの建物は、太く力強いピロティによって持ち上げられています。

 

本来地上部を独占するはずの公共的な施設や共用施設はなく、歩行路や駐車・駐輪場として開放されています。

 

屋上は公園、体育館、プールなどスポーツ、レクリエーション施設があり、幼稚園も完備。

 

中間層には食料品店、レストラン、本屋、郵便局、ホテル等があります。

 

生活のすべてをこの建物で行うことができるこのアイデアは豪華客船から得られています。

 

水平に広がる都市ではなく、垂直に積み重ねた都市とも言えそうですね。

 

暗い中廊下から玄関扉を開けると、室内には太陽の光が満ちています。

 

内部はメゾネットタイプが基本で、東西の両方向に突き抜けており、必ず午前と午後の陽射しの両方を享受できるようになっています。

 

◯モデュロールという黄金則

モデュロールはコルビュジエが人体寸法と黄金比の研究によって生み出した人体を基準にした新しい尺度です。

 

身長183センチの人を基準に、この人が手を挙げた高さが226センチで、人体寸法に準じたこれらの数値を用いれば、自ずと人が動きやすい寸法の空間や家具がつくれるといった具合です。

 

人間が快適に暮らすのにむやみに大きい空間は不要で、ヒューマンスケールの空間がちょうどよいというわけです。

 

こうして各部分のサイズはモデュロールによって決められ、天井高は2.26メートル、奥行きは24メートル。

 

数字の上では窮屈そうですが、実際は落ち着いた居心地のよい空間になっています。

 

◯コルビュジエの晩年作

ロンシャンの礼拝堂はコルビュジエの後期の代表作です。

 
ロンシャン
 

フランス東部の小さな町から小高い丘を登っていくと、この独特な外観が見えてきます。

 

外観は蟹の甲羅からインスピレーションを得たと言われています。

 

世間を驚かせた巨匠のこのオーガニックな建築は、第二次世界大戦で破壊された聖ドミニコ会の礼拝堂を再建することになった際、クーテュリエ神父らが宗教建築に新しい精神を吹き込むことのできる建築家としてコルビュジエに設計を依頼したことで誕生しました。

 

のちに「はじめて造形的なことをやった」と自ら語っているように、サヴォア邸などに代表されるそれまでの合理的な作風とはまったく異なる建築です。

 

厚ぼったく重々しく見える大屋根は実は内部に空洞をもつ薄いシェル構造。

 

鉄筋コンクリートが可能にした自由で彫塑的な造形です。

 

分厚い壁は鉄筋コンクリートの構造フレームと、破壊されて残された元の礼拝堂のレンガや石を再利用して積み上げ、モルタルを吹付けの上、石灰で仕上げた壁によって構成されています。

 

一歩内部に入ると外観とのイメージの違いに驚かされます。

 

南面の壁に開けられた無数の窓から、ステンドグラスを通した赤縁青、透明とさまざまな色の光が差し込んで拡散する様子は何とも神秘的です。

 

 

壁と屋根の間のスリットから光を入れることで屋根の軽やかさが強調され、何とも不思議な屋根の浮遊感が演出されています。

 

コルビュジェといえば建築史的にもモダニズム建築の第一人者で機能的、合理的な理念に基づいた建築をつぎつぎと生み出してきました。

 

しかし、この礼拝堂はそれらの合理的な建築とはほど遠く彫塑的な建築となっています。

 

一時代を築いた巨匠が晩年に生み出した建築はブルータリズム建築と呼ばれ、また新たな建築表現に晩年辿り着いたわけです。

 

以上、大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃貸オフィス)からでした。

 

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