デザイナーたちの物語 マルセル・ブロイヤー
弊社、大禅ビルが行っております貸しビル業は、本質的には空間に付加価値をつけていくプロデュース業だと考えています。
そのような仕事をさせて頂いている身ですから、建築やインテリア、ファッションといったデザイン全般にアンテナを張っており、
そこで得たヒントやインスピレーションを大禅ビルの空間づくりに活かすこともあります。
とは言え、私は専門的にデザイナーとしての教育を受けたことはありませんから、本職の方々と到底比べられません。
本物のデザイナーというのは、既存の概念を超越するような美を生み出すアーティストに近い存在と言ってよく、その足跡の後には全く新しい地平が拓けていくものだと思っています。
◯巨匠グロピウスの弟子にしてパートナー
今回ご紹介するのはマルセル・ブロイヤー。
ハンガリー生まれのモダニズム建築家、家具デザイナーです。
モダニズムの巨匠・グロピウスの創設したバウハウスでは、ワシリーチェアや「20世紀の10大チェア」に数えられるセスカチェアなどをデザイン。
また、彼の建築作品は、美術館、図書館、大学の建物、オフィスビル、住宅など多岐にわたっています。
ブロイヤーは1902年、ハンガリーで生まれました。
18歳のときに芸術の勉学のために故郷を離れ、第一次世界大戦直後にヴァルター・グロピウスがワイマールに設立したバウハウスの最初の、そして最年少の生徒の一人となりました。
グロピウスに才能を認められた彼は、すぐにバウハウスの大工工場の責任者に任命され、後に同校の教官(マイスター)とまでなりました。
グロピウスは、19歳年下のブロイヤーを生涯にわたって指導することになります。
1925年に学校がワイマールからデッサウに移転すると、パリに短期滞在していたブロイヤーは、ジョセフ・アルバース、ワシリー・カンディンスキー、パウル・クレー
といった先輩たちと一緒に修士課程に入り、最終的には新設された建築学科で教鞭をとることになります。
後にブロイヤーはベルリンで開業し、住宅や商業施設のデザインを手掛けました。
ブロイヤーの最も知られている作品は曲げた金属パイプを使ったワシリー・チェアでしょう。
このパイプ椅子は、1925年に自転車のハンドルに着想を得てデザインされたもので、自転車用の工具を使って簡単に組み立て・分解が可能で、大量生産にも向いています。
1920年代後半から1930年代前半にかけて、ブロイヤーが求めていた建築の依頼はほとんどなく、デザイン料で生活していました。
ル・コルビュジエやミース・ファン・デル・ローエといった巨匠たちとも親交があったと言います。
1930年代に入り、ドイツ国内でナチスが台頭すると、ユダヤ人のブロイヤーはロンドンに移住します。
ロンドンでは、イギリスで最も早くからモダンデザインを提唱していたイソコン社のジャック・プリチャードに雇われました。
そこでブロイヤーはロングチェアをデザインし、合板を曲げたり成形したりする実験を行っています。
ブロイヤーは最終的にはアメリカに移住し、ハーバード大学デザイン大学院で建築を教えるようになります。
学生には、後にアメリカを代表する建築家となったフィリップ・ジョンソンやポール・ルドルフなどがおり、同時期、ブロイヤーは同僚でもあったグロピウスと共にボストン周辺の幾つかの住宅のデザインを手がけています。
師弟の活動はアメリカ流のモダン住宅設計の確立に大きな影響を与えました。
この時期のブロイヤーの家具・インテリアデザインの代表的な作品としては、グロピウスとともに総合芸術として設計されたピッツバーグのフランク・ハウスが挙げられます。
1941年、ブロイヤーはグロピウスとの協力関係を解消し、自身の建築設計事務所をニューヨーク市に開きます。
1945年の『Geller House I』はブロイヤーが双眼鏡から着想を得てデザインしたモダニズム建築の代表的な作品です。
玄関を中心に寝室と居間・食堂・キッチンを両翼に分けてデザインした「バタフライ」と呼ばれる特徴的な屋根を持っています。
1953年、パリのユネスコ本部の設計依頼はブロイヤーにとって転換点となりました。
ヨーロッパへの帰還、大プロジェクトへの復帰だけでなく、この仕事で初めてコンクリートを使用したそうです。
以後の彼は曲線美や彫刻的な表現を特徴とするブルータリズムの先駆者として活躍、「ブロイヤーはコンクリートで柔らかさを表現した」と評されるまでになります。
◯ブロイヤーの代表作
フーパー邸
2万8300mもの広大な敷地内に家らしきものはなく、ただ壁が2枚立っているだけ。
自然あふれる敷地の景観と調和しながらも、直線的でモダンな壁です。
しかし、地元産の石材でできた壁の間を通ると、天井高さ2.6mほどの薄暗い玄関の先に、部屋と石壁で囲まれた100平方メートルほどの中庭が広がります。
敷地は広く自然豊かなので、この家の住人のためにブロイヤーは自然を切り取って、住宅の内部に取り込むことにしました。
そうすることで、自然は家族とより濃密な関係を結び、住まいの一部となります。
間取りも、立面と同様にいたってシンプル。
長方形の箱の真ん中に中庭。その片側に、居間や食堂、台所といった公共性の高い部屋が配置され、
もう一方の側には夫婦と3人の娘、そして泊まり客用の寝室と、家族用居間などのプライバシー性が高い部屋を置く。
シンプルな構成と控えめな表現でつくられているので、このフーパー邸には経年を感じさせない心地よさがあります。
聖フランシス・ド・セールス教会
アメリカミシガン州ノートン・ショアーズにあるローマ・カトリック教会です。
双曲放物面のフォルムとブルータリズムのデザインが特徴です。
型にはまらない独特な構造のため、コンクリート打設を得意とする業者が特別に選ばれたそうです。
アトランタ中央図書館
ブロイヤーが設計した最後の建物です。
ブルータリズムの建築様式で設計されたこの建物は、建築専門家から傑作と評されています。
構造は鉄骨とコンクリートスラブで構成されており、素材としてコンクリートが選ばれたのは、凹んだ窓に必要な特殊な形状を最も経済的に実現できたからです。
アームストロング・ラバー社ビル
2階建ての研究開発スペースの上に2階建ての管理オフィスを浮かせるデザインとなっています。
間にあるスペースは、下の開発ラボからオフィスへの音を軽減するためのものだと言われ、
また、建物のファサードは、日除けと視覚的な奥行きを演出するためにプレキャスト・コンクリート・パネルですべて構成されています。
以上、大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃貸オフィス)からでした。