デザイナーたちの物語 ヘルツォーク&ド・ムーロン
弊社、大禅ビルが行っております貸しビル業は、本質的には空間に付加価値をつけていくプロデュース業だと考えています。
そのような仕事をさせて頂いている身ですから、建築やインテリア、ファッションといったデザイン全般にアンテナを張っており、
そこで得たヒントやインスピレーションを大禅ビルの空間づくりに活かすこともあります。
とは言え、私は専門的にデザイナーとしての教育を受けたことはありませんから、本職の方々と到底比べられません。
本物のデザイナーというのは、既存の概念を超越するような美を生み出すアーティストに近い存在と言ってよく、その足跡の後には全く新しい地平が拓けていくものだと思っています。
◯物質性を追求する現代建築家ユニット
今回ご紹介するのはヘルツォークとド・ムーロン。
スイス・バーゼル出身の建築家、ジャック・ヘルツォークとピエール・ド・ムーロンによる建築家ユニットです。
彼らは物質に注目した独特のファサード表現を特徴としたデザインを行っており、2001年にプリツカー賞を受賞し、現代建築をリードする建築家として評価されています。
二人はともにスイス連邦工工科大学チューリヒ校を卒業した後、1978年に共同の建築設計事務所を設立。
初期の作品は、スレート状の割栗石が積層されたファサードで、ボックス状の形態をもつストーンハウスや、ねじれた銅製の帯で全体が覆われたシグナル・ボックスなど、スイス建築を特徴づけるミニマリズムに位置づけられるものが多い。
しかし、キャリアを積み重ねるにつれ、単純なボックス状の形態ではなく、プラダ青山店や北京国家体育場のように、彫塑的で複雑性を帯びた形態を創出するようになっていきました。
それらは床・壁などの概念を問い、建築を構成する素材物質そのものに注目する彼らの建築家としての態度に裏付けられたもので、素材や物質の操作が建築全体の秩序・ルールに関連づけられるまでに発展しています。
建築の表面や要素を構成する物質に着目したデザインは、彼らが切り拓いてきた現代建築の一つの潮流であると言えます。
◯幼い時から気心の知れた相棒同士
ヘルツォークとド・ムーロンは幼なじみで、幼い頃から一緒に図面や模型を作っていました。
二人とも大学では建築を専攻せず、ヘルツォークは商業デザインを学んだ後、バーゼル大学で生物学と化学を学び、ド・ムーロンは土木工学を専攻していました。
2人ともさらにスイス連邦工科大学ローザンヌ校とチューリッヒ校で建築も学び、1975年に卒業。
1978年、ヘルツォークとド・ムーロンは、バーゼルに建築事務所を設立し、1989年には二人ともハーバード大学の客員教授に就任します。
二人の建築事務所は、後にロンドン、ミュンヘン、サンフランシスコにもオフィスを構えるまでに成長しました。
2001年、ヘルツォーク&ド・ムーロンは、建築界最高の栄誉であるプリツカー賞を受賞します。
「歴史上、建築の内部にこれほどの想像力と美学をもって取り組んだ建築家はいないだろう」と評されました。
2006年にニューヨーク・タイムズ誌は、二人の事務所を「世界で最も称賛される建築事務所の一つ」と讃えています。
◯代表作
素材感によるアーティキュレーション(建築において、各パーツを別々に強調することによってパーツが全体にどのようにフィットするかを表現すること)へのこだわりは、
彼らのすべてのプロジェクトに共通しており、革新的な素材を用いて、見慣れない、あるいは物質同士の未知の関係を明らかにしようとしている点に特徴があります。
北京国家体育場
中国・北京の陸上競技場。北京オリンピックのメインスタジアムでもありました。
鉄骨の構造体が縦方向に張り巡らされ、 巨大な鳥の巣のような形態となっており、通称「鳥の巣」とも呼ばれています。
ヘルツォークとド・ムーロンは、このスタジアムに余分な処理を全く加えず、建築構造をそのまま外にさらけ出した結果、こうした建築の外観ができあがりました。
「鳥の巣」の外側の構造は、42000トンの巨大な鋼材をアーチ式に組み立てたもので、巨大なネット状の構造の内部には一本の柱もありません。
エルプフィルハーモニー・ハンブルク
1966年にエルベ川に建てられたレンガ造の倉庫に増築されたコンサートホール。
既存の倉庫の上に、波のような形状のガラスのボリュームが増築されており、ガラス1枚1枚も波打つような曲面形状で、空や街並、水面を反射しています。
その印象的な形態や周囲の景色を映し出すガラスの表情によって、この作品は湾岸都市ハンブルクのシンボルとなっています。
ちなみにこの作品は、巨額なコストの増加と建設の大幅な遅れからすったもんだあったようで、当初の予算は約7700万ユーロでしたが、次第に膨らみ、最終的にはおよそ10倍の7.89億ユーロとなったそうです。
プラダ青山店
東京・青山に建つクリスタルのような外観の店舗建築。
ファサード全体がひし形の格子と、そこに組み込まれた凹状・凸状・平面のガラスによって覆われています。
タワーの脇には余白となるスペースが広がり、公共広場のような場を都市空間に提供しています。
テート・モダン
イギリス・ロンドンのテムズ川畔、サウス・バンク地区にある国立の近現代美術館。
元は古い発電所でしたが、伝統的な要素にアールデコやモダニズムを取り入れて美術館としてリノベーションした作品です。
発電機のあった巨大なタービン・ホールを大エントランスホールとし、屋上に採光窓やレストランなどのあるガラス張りのフロアを設けるなどの工事が行われました。
今では地元の人々や観光客に非常に人気のあるスポットとなっています。
ヴィトラ・ハウス
ドイツのバーデン=ビュルテンベルク州ヴァイル・アム・ラインにある、家具メーカー・ヴィトラ社の建物です。
細長く伸びた切妻屋根の建物が交差するように組み合わされており、内部はショールームとして、リビングやキッチン、書斎などさまざまな部屋のデザインモデルが展示されています。
各階の正面には5角形の大きな窓が配置され、その独創的な外観は多くの人の注目を集めています。
リコラ・ヨーロッパ社工場・倉庫
スイスのハーブ菓子メーカーであるリコラ社がフランスに建てた工場です。
60メートル×30メートルの平面の建物の長手方向に8メートルの大ひさしが両側に跳ね出しているシンプルかつダイナミックな形態が特徴的です。
長手方向の正面、大ひさしの軒天の半透明のパネルを覆うように木の葉の写真をプリントし、独特なファサードをつくりだしています。
この木の葉が見る角度、時間などによって刻々と変化し豊かな表情を作っているほか、
パネルを通過した光が内部に差し込み、周辺の木々を暗示させ記号的ファサードとして機能するようデザインが施されています。
対して短辺方向はコンクリート打放しで仕上げており、降った雨がこの短辺方向の壁を伝って地面に導かれています。
このコンクリートには撥水加工といった通常の壁面処理が施されておらず、水切りや樋も付けられていません。
なので、コンクリートの壁に雨水がそのまま垂れ流されていくわけです。
これによって水が壁伝いに流れた痕跡が外壁に残ってしまうが、この雨垂れによって作られる縞模様の痕跡自体をデザインとして表現しているのです。
多くの現代建築は、自然の変化や経年変化に抗して、完成したばかりの綺麗な状態をいかに保つかが重視されています。
ところがこの建物は、そのようなディテールの追求を放棄しています。
むしろ、雨が建物を改変していくという出来事を記録する媒体として壁面が用いられているかのようです。
そしてその雨水を 最後に地面の植物が受け止めるようにしており、あらゆる建築要素が見事なほど相関関係の中に置かれ、なおかつそれぞれが独立しています。
以上、大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃貸オフィス)からでした。