バブルの歴史⑤ ―サブプライムローン―
■リーマンショックの引き金
2008年9月、アメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズ破綻のニュースが世界を駆け巡りました。
「リーマンショック」です。
日本で言えばみずほ証券のような大企業の破産です。
しかも世界金融のド真ん中であるアメリカウォール街で起こった事件なだけに衝撃も影響も大きく・・・
当時のアメリカ政府はリーマンを見殺しにせず、公的資金を注入して救うべきではなかったかという批判が今なおなされています。
結果、アメリカのGDPのうち約7割を占める個人消費が冷え込み、景気が後退するだけでなく、
大手銀行シティグループはサブプライムローン関連で235億ドル(約2兆5000億円)の巨額な損失を計上するなど、被害は甚大と言えるものでした。
リーマンが危ないかもしれない・・・
そのような噂は前から囁かれていました。
なぜならリーマンは当時、焦げ付きリスクの高いサブプライムローンを証券化した
「住宅ローン担保証券」、
それをさらに証券化した「CDO(債務担保証券=Collateralized Debt Obligation)」を大量に保有していたからです。
■住宅価格上昇の背景
アメリカでは2000年にITバブルが崩壊した後、景気悪化の対応策として金融が緩和されました。
金融緩和によって金利が下がると、住宅を買おうという人が増えていきます。
住宅価格や家賃が変わらないとすると、借家よりも借金をして家を買って金利を払ったほうが有利になってくるからです。
そうして住宅の取引価格は上昇、新築建設も増加していきます。
住宅価格が上昇していくと「安いうちに!」と、来年買う予定だった人が借金をして今年買うようになるので、価格上昇は益々加速していきますし、
中古住宅が値上がりすると、 どうせなら新築を買おう!と新築着工数も増加。
そしてこれもまた世の常ですが、値上がりへの期待で住宅市場に投機資金が流れ込むようになります。
「価格が今後も上がり続けていく」という期待感に引っ張られるように住宅産業がにわかに活気づき、実需と建設コストからかけ離れた不動産バブルが始まります。
■サブプライムローンとは何か?
景気がいい時に人の財布は緩むもの、値上がりへの期待でバブルが膨らんでいくと、銀行の融資審査も甘くなりがちです。
通常ならば融資対象にならないような信用力の低い人にも、住宅ローンを貸すようになる。
これが「サブプライムローン」です。
サブプライム層(優良客=プライム層よりも下位の層)に対して貸し付けられるローンのことです。
アメリカでは低所得の労働者階級や移住してきたばかりの移民などは返済能力が低いとみなされていました。
黒人などのマイノリティーが住宅ローンを借りやすくなるようにするという政治的な意図もあったようです。
経済格差の激しいアメリカでは、低所得者層がマイホームの夢を叶えられる殆ど唯一の方法がサブプライムローンでしたから、致し方ないと言えばそうなのかもしれませんが。
ローンを組むのが難しい彼らを対象に、サブプライムローンは設計されたのです。
返済能力の低い人向けのローンだから、当然債務不履行に陥る可能性も高いわけですが、
それでもなぜサブプライムローンのようなリスキーな金融商品が成立したのでしょうか?
それは、
「住宅価格の上昇を前提としている」
からです。
サブプライム·ローンの多くは「2年後に借り換えさせ、新しい住宅ローン債権を証券化する」のを目的として組まれていました。
たとえば、銀行は信用力の低い借り手から住宅ローンの借り入れ申し込みを受けた際、
金利ゼロで2年間融資し、元本の返済を2年間猶予します。そしてその家に抵当権を設定します。
2年後、値上がりしたところで、その家を担保に新たに10万ドルを融資し、既存の融資を全額回収します。
そうなると、新しい融資は「過去2年間、一度も元本と利子の返済が滞らなかった優良な借り手に対する融資」と評価され、証券化がしやすくなるのです。
つまり、信用できる商品としてバンバン市場流通ができるようになるわけです。
回収できない恐れがあるので、サラ金と同じ考えてサブプライムローンは通常の住宅ローンよりも金利が割高で設定されていました。
また仮に借り手が返済できなければ、値上がりしたであろう担保の住宅を競売して返済に当てればよいと考えられていました。
いずれにしろ銀行と証券会社にとって儲かる商売だったのです。
こうしてサブプライムローンが住宅ローン担保証券となり、CDOとなり、世界中の投資家に販売されていきました。
サブプライムローンは2003年頃から急増し、2006年末にはアメリカの全住宅ローン約11兆ドル(約1180兆円)のうち、
14%に当たる約1.4兆ドル(約150兆円)を占めるまでになりました。
■住宅ローンの証券化とメリット
アメリカでは銀行が住宅ローンを貸し出すと、それを証券化します。
ファンドである発行体が社債を発行して投資家から資金を集め、それで銀行から住宅ローンを購入します。
この社債が「住宅ローン担保証券」であり、格付会社はこれに高い格付けをして発行体の返済能力を担保しました。
自ら住宅ローン担保証券を購入し証券化した発行体もありました。その証券はCDOと呼ばれていました。
銀行にとって、住宅ローンを証券化するメリットは2点あります。
一つは自己資本比率規制をクリアできること。
好景気の時は銀行としては貸出先を増やしていきたいところ、自己資本比率規制があるため借り入れ申し込みを断らざるを得ません。
しかし、貸出債権をすぐに売却できれば規制を気にする必要はありませんし、売却価格も貸出金額より少し高い金額なので、ちょっと儲かります。
もう一つは金利リスクの回避です。
国の金融政策次第で銀行は貸出金利より預金金利が高い状態という逆ざやの状況に陥るリスクがあります。
しかし証券化で住宅ローン債権をさっさと売却してしまえば、こうしたリスクを回避できます。
それから投資家にとっても証券化はメリットです。
銀行から直接住宅ローン債権を購入すると、その住宅ローン債権が焦げ付くと大きな損失を被りかねません。
しかし発行体から買う社債は多数の住宅ローン債権や他の信用力のあるローンの組み合わせによってリスク分散を図られた商品です。
例え一部の債権が焦げ付いても、あらかじめ利ざやの設定にリスクを含めてあるので、投資家への支払いが滞る可能性は小さいと思われていたのです。
住宅ローン担保証券は格付会社による格付けもなされているので、買い手も見つけやすい。
金融商品の大量生産と大量流通によるビジネスをスケールアップ。
これが証券化の価値であり、逆にリーマンショックの影響が全世界に波及した理由でもあります。
サブプライムローンが証券化によって世界中の金融機関、投資家にばらまかれたのです。
■サブプライムローンの焦げ付き
バブルはいつか弾けます。アメリカの場合、金融の引き締めにともない住宅価格の上昇が止まったことが引き金でした。
サブプライムローンの前提は住宅価格の上昇でした。借り換え時の値上がりを見込んで貸し出すわけです。
しかし価格上昇が止まると借り入れ分を貸し出すのが不可能となり、
「所得も仕事も資産もない借り手」
が6割を占めていたと言われるサブプライムローンはほぼ自動的に返済不能に陥ります。
ローン会社が借り手の返済能力をロクに調査せずに、所得の自己申告だけで貸し付ける有り様だったそうです。
そして大量の住宅が競売にかけられ、住宅価格が下落し、住宅ローンが焦げ付いていくのでした。
リーマンショック後に家を失った人は全米で600万人にも及んだと言われています。
家を買ったのに逆に負債を背負ってしまい、結局立ち退きさせられる。
身の丈に合った堅実な経済とは何か?バブルを巡る盛衰の歴史は私たちにいつも多くの示唆を与えてくれます。
以上、大禅ビル(福岡市 天神 賃し事務所)からでした。