デザイナーたちの物語 ジャン・ヌーヴェル
弊社、大禅ビルが行っております貸しビル業は、本質的には空間に付加価値をつけていくプロデュース業だと考えています。
そのような仕事をさせて頂いている身ですから、建築やインテリア、ファッションといったデザイン全般にアンテナを張っており、
そこで得たヒントやインスピレーションを大禅ビルの空間づくりに活かすこともあります。
とは言え、私は専門的にデザイナーとしての教育を受けたことはありませんから、本職の方々と到底比べられません。
本物のデザイナーというのは、既存の概念を超越するような美を生み出すアーティストに近い存在と言ってよく、その足跡の後には全く新しい地平が拓けていくものだと思っています。
◯ガラスの魔術師と呼ばれる男
今回ご紹介するのはフランスの建築家、ジャン・ヌーヴェルです。
独特なガラスの使い方で光を操る建築が得意で「ガラスの魔術師」とも称される、2021年現在、御年75の近代建築の鬼才です。
ヌーヴェルは1945年、フランスのフメルで教師の子として生まれました。
両親はヌーヴェルに数学と言語の勉強を勧めたものの、16歳の時に教師からデッサンを教わり、芸術の魅力に取り憑かれたと言います。
後に家族は「美術よりもリスクの少ない建築を学んで欲しい」という妥協案を出したそうです。
後にヌーヴェルはパリに移り、全国コンクールで1位を獲得してエコール・ナショナル・スーペリア・デ・ボザールに入学。
1967年から1970年にかけて、建築家のクロード・パランとポール・ヴィリリオのアシスタントとして働き、
わずか1年で彼は大規模な集合住宅の建設を担当するプロジェクト・マネージャーを任されます。
学校を卒業したヌーヴェルは以降十数年にわたり、建築デザイン、コンペやイベント開催の仕事に関わっていきます。
そして1981年、ヌーヴェルはパリのアラブ世界研究所の設計コンペで優勝し、1987年に完成させ、一躍脚光を浴びます。
◯伝統とハイテク建築の融合
ヌーヴェルは、世界各地で数多くの著名な建築物を設計してきましたが、その中でも最も重要なものを以下にご紹介します。
アラブ世界研究所
アラブ世界とその文明、芸術、知識、美学など文化的・精神的価値について研究、発信することを目的として、1980年にアラブ諸国18カ国とフランスが共同でパリに設立した組織です。
パリ5区のセーヌ川沿いに建ち、南西側のファサードは全面ガラス張りのカーテンウォールとなっています。
イスラムの幾何学装飾の格子を思わせるアルミパネルが240枚設置されており、この機械式パネルにはカメラの絞りのようなメカニズムが搭載されています。
外の光に反応して240個の感光性モーターの制御によってシャッターを自動的に開閉し、太陽から建物に入る光と熱の量をコントロールする仕組みとなっており、
時間によりガラスに映る空や景観が、建物の表情を変化させます。
館内はメタリックな天井や床へ万華鏡のように乱反射する光が美しく、神秘的ですね。
この革新的な技術と伝統文化とを結合させた挑戦作は、ヌーヴェルの名を世界に広めるきっかけとなりました。
トーレ・アグバール
2005年バルセロナにできた水道会社アグバールの38階建ての超高層ビルです。
鉄筋コンクリートの構造体をガラスのファサードで覆い、構造体のコンクリートから切り取られた4500以上の窓の開口部を備えています。
そしてやはりなんといってもこの特徴的な外観ですね。
バルセロナのハイテク建築の事例の一つとして数えられるこの作品は、水道会社がタワーに入居するため、海中から空中に昇る間欠泉の形がイメージされています。
ヌーヴェルはまた、バルセロナ近郊のモンセラット山からもインスピレーションを得ています。
そのモンセラット山にはカタルーニャの守護聖人であるモンセラットの聖母の聖地とされ、カタルーニャの人々にとって大きな信仰的意味を持っています。
現地の人々の心に根付く信仰をも取り込んで、ヌーヴェルはこの先進的な作品で表現したわけです。
建物の建設に使用された主な材料は、タワーの構造を構成するコンクリートと、約16,000m2の外壁を覆う59,619本の異なる色の塗装されたアルミニウムとガラスです。
さらに、ガラスの傾きや不透明度が異なるため、アルミニウムの色合いと相まって、時間帯や季節によってタワーの色合いが変化します。
この建物の最も特徴的な要素の一つは、夜のライトアップです。
タワーには4500個以上の発光体が設置されており、LED技術を用いて独立して動作することで、1600万色もの色でタワーの表面に映像を生成することができます。
この作品は完成後、瞬く間にバルセロナ市のアイコンとなり、最も有名な建築物の一つとなりました。
その奇抜なデザインから、当初は市民や専門家からバルセロナの建築に合わないと批判を受けたこともありましたが、
時を経て、この建物はカタルーニャ州の首都を示すシンボルの一つとして受けれられ、観光名所の一つとなっています。
タワー25
キプロスの首都ニコシアの中心部に位置する高層建築物です。
高さ62メートル。キプロスで4番目に高い建物だそうです。
全方向から街を眺望することができ、そのユニークなデザインは、伝統的なキプロスの建築様式と似ています。
各階のバルコニーの幅と深さを変えることで、自然なイメージを作り出し、建物が静止しているのではなく、実際に「呼吸」しているかのような錯覚を与えています。
ファサードには、一見ランダムなパターンの四角い空洞があり、これは窓としての役割と、都市の暑い気候のために必要な自然換気のための開口部となっています。
南側のファサードには、バルコニーの代わりに各階に植栽スペースを設けたガーデンがあり、環境に配慮した建物となっています。
タワー25は、その独創的なデザインと立地条件から、ニコシアのランドマークになっています。
電通本社ビル
日本にあるヌーヴェルが手掛けた作品です。
東京初の鉄道駅の跡地に建設され、汐留シオサイト(汐留再開発地区)の東側に位置し、南側は浜離宮庭園に面しています。
48階建て、高さ213.34m、2002年に完成しました。
オフィス棟はフランスの建築家ジャン・ヌーヴェル、商業施設部分はアメリカの建築家ジョン・ジャーディがデザインを担当しました。
周囲の景観およびビルで働く約6000人の社員がウォーターフロントを眺められるよう、浜離宮庭園に面した南側を曲面としたブーメラン状の断面が採用されています。
その南側は東から西に向かって白からグレーにグラデーションがつけられ、西側の角は白く彩られています。
◯まだまだ現役の現代建築家
ヌーヴェルはこれまで200件以上のプロジェクトを手がけ,2008年に建築界最高の栄誉であるプリツカー賞を受賞しています。
プリツカー賞の審査員は次のように述べています。
「建築家ジャン・ヌーヴェルのキャリアにおいて最も重要なのは、彼が勇気を持って新しいアイデアを追求し、分野の限界を広げるために既存の規範に挑戦したことである」
粘り強さ、想像力、情熱、そして何よりも創造的な実験への飽くなき衝動。
そうしたエッセンス溢れるヌーヴェルの作品はこれからも世人を驚かせていくことでしょう。
以上、大禅ビル(福岡市 舞鶴 賃貸オフィス)からでした。